2017-01-16-16-37-08



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 さて、「序章」と「第1章」に続いて、「第2章 キム・ヨナ」です。

 まず、今回再読する以前の、キム・ヨナについての私の印象を簡単にお話しましょう。昨年の5月に本書を読むにあたって、彼女はあまり好きな選手ではないし、まぁ、ブライアンのことを知るために読んでおくか・・・と、半分義務的にページをめくっていました。

 で、当然の結果なんですが、5月30日にアップした記事では、ブライアンに同情するわぁ・・・という冷静さを欠いた感想になっています。

 しかし、今回は「チーム・ブライアン」の取り組みにフォーカスして読むことができました。平昌五輪が見えてきて、私のような単なるファンも、羽生君がどのような状態で本番を迎えるか?と、彼の一挙手一投足がいよいよ気になってきたからだと思います。当然、本章で私が注目したのは、「オリンピック直前にどんな準備をしていたのか?」という、その一点です。

 そして、ふと感じたのは、来月発売の続編の中でも、全てが明かされることはないのかもな・・・ということです。それは、羽生君もハビも2018年に金メダルを争うバリバリのトップ選手であることが理由の一つです。しかし、キム・ヨナがもはや「過去の人」だからこそ、本章の内容は予想以上に具体的で、私の「イメージ」を十分に膨らませてくれました。

 どういうことかというと、羽生君の発言、ブライアンの発言、あるいは先日ご紹介した対談の内容に、本章の内容はかなりの肉付けをしてくれると思ったからです。

 少し長いですが、私が、なるほど!と思った部分から引用しましょう。バンクーバー五輪のまさに演技直前の様子です(125~128頁)。

  「私(ブライアン)とデイヴィッド(・ウィルソン)は、不安や緊張をヨナに見せないように気をつけていました。コーチとしては、自信にあふれ、いつも通りである必要があります。おかしなもので、コーチのほうこそオリンピックというストレスが高い状況に置かれて、突然、普通でなくなるケースがあるのです。いつもと違うふるまいをしたり、アドバイスしすぎたり、妙にそわそわしたりするコーチもいます。しかし私は、いつも通りにふるまいました。必要以上に話さず、それ以下でもない。必要以上に落ち着くのではなく、いつも通りに落ち着くようにするのです。 いつもと同じような立ち話をして、笑ったりしました。そのために、私は自分のボディランゲージに気を配っていました。ちょっとした隙に見せる手や表情の動きこそ、いつも通りであるべきです。そうすればヨナも、すべていつも通りだと感じます」

  「・・・選手廊下で一緒に出番を待っていると、彼女は突然立ち上がってカーテンをくぐり抜け、会場へと出ていくのです。私が『時間だ行こう』などと言うのではありません。ヨナは自分で責任を持って、出発するのです。私は彼女の目をじっと見ているだけでよかったのです。ですから、普段、競技前に私がかける言葉も、それほど多くありませんでした。オリンピックでも同じです。私は『何をなすべきかわかっているね』と言い、ヨナは『準備はできてるわ』と答えました。ハイタッチしたり、『GO! GO!』などと叫んで励ましたりはしません。ヨナにとっては、そういった派手なことは少ないほうがいいのです。ただ落ち着いていればいいとわかっていたので、オリンピックだからといって特別なことを口にすることはありませんでした。もちろん、私たちはこれが世界最大のイベントであるとわかっていました。だからといって、選手には非常事態だと思ってほしくないのです。『日常』か『非日常』かでいえば、『日常』です。このために私たちは毎日トレーニングをしてきたのであって、その準備を(2006年春から)3年半もかけて整えているので、予想外のことが起きる隙もないのです」

 どうですか?「序章」の対談で、羽生君は、「ソチの演技直前でも、ブライアンはいつも通りだった」と語っていましたが、その理由が本章で細かく語られているわけです。



 バンクーバー五輪のSPの動画です。ブライアンはヨナをじっと見つめて、静かに、一言、二言しか声をかけていませんね。この78.50と、マルセイユGPFのメドベの79.21のプロトコルを見比べてみると、この頃って、いまよりもPCSは出てないんですね。GOEはヨナの方がついていて、ノーミスなだけでなく、要所要所きっちり押さえて、さすがに巧いなと感じます。

 実は、本田真凛ちゃんを見た時に、あのムチのようにしなる腕にキム・ヨナのおぼろげな記憶がかぶっていたんですが、真凛ちゃんの方が全然柔らかいですね。むしろ、ヨナは身体が大きくてゴツくて、もっさり感すら感じます。



 こちらはフリーの直前。ブライアンは"ok"としか言ってませんね。ヨナのバンクーバーのフリーって全然記憶になかったんですが、このガーシュウィンの「へ調の協奏曲」、私、けっこう好きです。3:30前後から突然激しくなります。ネイサンの「ダッタン人の踊り」のようなパワフルな雰囲気に変わり、後半のジャンプもビシっと決まって、ブライアンのガッツポーズも見られますよ。

 序盤、2本目のジャンプを着氷した後にイーグルが入って、その後にイナバウアーも入っていて、ちょっとそのDNAはゆづに受け継がれてる?なんて言ったら各方面からお叱りを受けそうなので、ここだけのゴニョゴニョ話にしておきますが、え?いいじゃんこのプロ!・・・と感心してしまいました。そりゃ、ブライアン、トレーシー、デイヴィッドが指導&振付をしてるんだから、いいものじゃないわけがない。「ボンドガール」に抵抗のある方は、こっちだけでも見てほしいです。

 いやぁ、やっぱり日本の女子選手で誰かクリケットの門を叩いてほしいですよ。真凛ちゃんは、妹たちがいるからお母さんがトロントまで行くわけにいかんし、そもそも濱田先生が放さないだろうから、新葉ちゃんとかどうかな・・・と思うんです。シェイリーンに振付もしてもらってるし。

 さて、話を戻して、もう少し、「チーム・ブライアン」の取り組みをご紹介しましょう。

 (1)クリケットでの「メディア・デー」はヨナの時からやっていた



 映像残ってますね。シーズンイン前の夏に、韓国メディアだけでなく日本のメディアも取材に来ていたそうです(フジテレビですかね?)。お母さんの姿も映っていました。本書でも記されていますが、完全に黒子役に徹している羽生君のお母さんとは対照的な人で、リンクが見えるラウンジから常に練習を「監視」して、スケジュール管理もそうですが、プログラムの最終決定権さえ母親にあったようです。ブライアンとデイヴィッドがママの前でプレゼンして、OKが出ないと採用されないという・・・ちょっと笑えない話です。

 ちなみに、上の動画の中で、キム・ヨナが出演しているティッシュのCMが流れていますが、CM撮影は基本的にトロントだったみたいです。羽生君のように、スケ連がいて、ANAがいて、というバックアップ体制とは違っていて、彼女の場合、母親と代理人がスポンサー契約等をこなしていたようです。おそらく韓国のスケ連は日本と比べて脆弱で頼りにならず、お母さんがコーチ探しから何から何まで、とにかく彼女を引っ張ってきた感じです。

 (2)ルッツ/フリップ対策として五輪直前にも練習を公開

 09年の12月にもクリケットで「メディアデー」を開き、マスコミを集めています。この頃、ルッツとフリップのエッジエラーの判定が厳しくなってきて、ヨナ自身もフリップのエラーを取られたことがあったとか。

 そこで大勢のメディアとカメラをクリケットのリンクに入れて、3Fを何度も跳んで見せて、ブライアンも、

  「どうです?ヨナのジャンプを見ました?実に正確なエッジだ。すごい!なんて特別な少女なんだ。素晴らしい!」

 このようにメディアの前で賞賛します。これまでエッジエラーの件で、批判があったことを知った上で、あえてこのように練習を公開しました。ブライアンも思い切ったことをするもんですが、このメディアデーと、そして実際、バンクーバーでもミスをしなかったヨナは本番に強い選手だったんですね(106~108頁)。

 章末の野口さんの解説では、3Aを武器にした浅田真央ちゃんに対して、ブライアン陣営の策は、「3回転+3回転」の質を上げることと、演技全体の完成度をバランス良く高めることに集中しつつ、「フィギュアスケートで高得点が出る演技とは何か?」を追求し、ジャッジやISU役員へ徹底的にヒアリングするなどの情報戦も行った、とあります(138~139頁)。

 バンクーバーの動画の所にプロトコルも貼りましたが、日本ではなぜか3Aが15点とか20点ぐらいの技のように騒がれますけど、基礎点は、3A+2Tで9.50(現在は9.80)、3Aは8.20(現在は8.50)。3Lz+3Tは10.00(現在は10.30)。

 真央ちゃんはバンクーバーで3Aを三本成功させましたが、GOEを見ると、SPの3A+2Tは0.60、フリーの3Aは0.80、3A+2Tが0.20でした。彼女ですらGOEが1点つかないわけで、他の選手が3Aにチャレンジできるわけがないですよね。

 ちなみに、09-10シーズンでは、ヨナはGPシリーズはファイナル含めて3連勝でバンクーバー入り。一方、真央ちゃんはGPの2試合では3Aのミスが目立って(5位と2位)、ファイナルに残れていません。それでも全日本に勝ち、バンクーバーで銀を獲得したのは立派ですよ。

 やはり、ヨナの「シーズン通しての安定感」が抜けていたと同時に、にも関わらず、「金メダル!」「金メダル!」と騒がれた真央ちゃんは、過度のプレッシャーの中でよく頑張ったんだなと思います。

 いまのように、スマホやタブレットを駆使してライストで試合を見れて、プロトコルも自分で見て、SNSで海外の識者の論評を即座に読めるような状況とは違って、当時はスケオタが戦力分析をするのは難しかったはずです。

 明日は、そのまま「第3章 ユヅルとハビエル」を予定しています。

 では、また明日!

 Jun

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