『羽生結弦は捧げていく』感想(1)

『羽生結弦は捧げていく』感想(1)

2019年2月15日発売。860円+税。

ようやく中身を開く時間が取れたのですが、いやぁ、今回も渾身の一冊です。羽生君の部分に限っても、高山さんの言わんとするところを理解するには、こちらも相当細かく動画をチェックしながら読み込んでいかないと、なかなか大変ですね。

ロシアカップファイナルがそろそろ始まりますし、チャレンジカップもあり、少し空いて、世界ジュニアも始まります。とはいえ、OtonalとOriginの部分は、「さいたまワールド直前応援企画」でしっかりやる予定です。

さて、実は中身を読む前に、すごーく気になったのが、裏表紙の帯にある「ザギトワのピークはまだ先にある」という一文。ネット上では「メド・ザギはもう厳しいでしょ・・・」という意見を最近よく目にしますが、高山さんが彼女をどのように見ているのか。今回はザギちゃんの部分に注目してみます。

10月のジャンパンオープンのフリーを会場で観戦しました。・・・曲はビゼーの『カルメン』。・・・ザギトワの『カルメン』は、「アスリートが限界にチャレンジし、かつ物語の世界を表現する」という感じでしょうか。私個人としては、平昌シーズンのフリー『ドン・キホーテ』より、こちらの方が好きです。

・・・アリーナ・ザギトワのピークは、まだまだ先にある。(JOのカルメンは)それを強く感じた演技でした。

・・・ジャパンオープンのノーミスの『カルメン』に鳥肌の立つような凄みを感じた私としては、まだまだザギトワには「伸びしろ」があると確信しています。ロシアの国内選手権ではフリーでミスが出て、総合5位だったザギトワですが、2019~2020年シーズンには、さらにマチュアに音をまとうようになっていることを猛烈に期待しています。

『羽生結弦は捧げていく』209~213頁

JOのリザルトは「こちら」。現地観戦は現地観戦で、テレビ観戦とは違った情報が入ってくるので、その時の感動を高山さんが綴っておられることは、それ自体に価値があると思います。

で、それはそれとして、最近のザギちゃんのパフォーマンスを踏まえて改めてJOの演技を見てみると、この頃はまだジャンプに若干の余裕があるように見えますが、それでもすでに厳しかったのかもな・・・と。冒頭の2Aからして低くて危ないですし、3F-2T-2Loの3連コンボはさすがに足りないのでは?と。プロトコル上でノーミスだったことは、JOという大会の特性や、あとはシーズン前でジャッジが手探り状態だったこともあると思います。

高山さんが、「ドン・キホーテよりカルメン」と「好き嫌い」をハッキリおっしゃっていることに驚きを感じたのですが、今季は“カルメンかぶり”が酷すぎるというのを差し引いても、私も賛成です。「カルメン」の方がスケーティングの伸びを見られるパートもあって、「ぶつ切りのせわしない感じ」が「ドンキ」よりは薄い印象です。

ただ、今後ザギちゃんが復活するためには、身長が伸びたこと、つまり「体型変化への対応」を抜きにしては語れないはずで、その点について高山さんがスルーしているのは、やや残念でした。以前このブログでは「体型変化への対応がうまくいってないのに、エテリが彼女に要求するものが昨シーズンと変わっていないのは、あまりに酷では?」という話をしました。体操の内村航平選手もS-PARKで言ってましたが、フィギュアスケートもやっぱりノーミスできてナンボです。「彼女のいまできることをやらせてあげなきゃ!」と外野としては思います。

もう一箇所、興味深い主張があったのでご紹介します。

今シーズンのショートプログラムの使用曲は『オペラ座の怪人』から。少し引っかかるのは、曲の編集が唐突すぎて、物語の世界観が薄くなっているような気がしたことです。『オペラ座の怪人』は世界的に有名なミュージカル作品ですし、羽生結弦の2014年のグランプリファイナルをはじめ、過去にも多くのスケーターがチョイスしています。この作品を演じたスケーターたちは、ある登場人物に自分を重ね合わせるようなスタイルか、いくつかの場面をじっくり演じるようなスタイルが多かった。


一方ザギトワのショートプログラム は、「何曲か選び、フレーズだけを抽出し、つないでいく」というスタイル。斬新といえば斬新ですが、私個人としては「もったいない」という感想を持ちました。初めてその演技を観る観客にも「曲の世界観」が共有されるように、使う曲を編集していくことも、プログラムの根幹のひとつかな、と私は思うのです。

『羽生結弦は捧げていく』212頁

引用が前後して申し訳ないのですが、「曲の世界観」を伝えられることもザギトワの魅力だと、高山さんは述べています。

「そうだそうだ!もっと言ってやれ!」と、プロのライターさんでグレイヘンガウスのプログラムにダメ出ししたのは、高山さんが本邦初ではないでしょうか。オペラ座もそうだし、コストちゃんのロミジュリだって、高山さんは絶対に好きじゃないはずだぞ!と、妙に親近感が沸いてきました。

プロのライターさんが「全員応援系」のテキストを書くこと自体は「仕事なんだからしょうがない」という部分があるのですが、この方の場合、執筆の過程でスケート関係者に取材等は行わないため、純粋な分析者の視点でフィギュアスケートを語ってくれています。「偏ってはいる(私と見方が違う所はある)けど信用できる人だな」と感じます。そして、本書では、前著と比べて「好き嫌い」をかなり出してくれていて、でも「悪口にならない」ところがプロだなぁ・・・と感心しますね。

ザギちゃんの所に限っても、これだけ語りたくなる材料を提供してくれるのは素晴らしい。また機会を見て本書を紐解いてみようと思います。

では、また明日!

Jun

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コメント

  1. ととちゃん より:

    高山さんの著書は、なかなか高難度で、今回まだ手を出せていません。こうして紹介頂いて有難いです。
    ザギトワ、JOの頃から更に身長が伸びて、自分の身体と折り合いをつけるのに手こずっている印象があります。高山さんが今の彼女をどう評価するのかを 知りたい気がしますね。

    前著では、高山さんのフィギュアスケートへの深い認識と、文章の品のよさを感じたのですが、今回はかなり主張もあるとのこと。興味をそそられました。

    今朝は羽生選手受賞ならず、で若干落ち込み気味でした。でもファンは切り替えて世選の応援に集中したいですね。

    • Jun より:

      ととちゃん さま

      まぁ、マニアックな本です。ただ、どんなに難解であっても、「主張」があることで、読者は内容をはるかに理解しやすくなると思います。もしかすると、編集者からの要望(前著への読者からの要望も)があったのかもしれません。

      ザギちゃんの身長の件を高山さんが知らないはずがないので、あえて体型的な部分には触れなかったと思いますが、でも、説得力は薄くなります。私が編集担当者だったら、「ザギはやっぱ身長の影響あるっしょ!」と譲りたくないですが、あまり詳しくない人が担当の可能性はありそうですね。

  2. みつばち より:

    更新ありがとうございます

    高山さんの著書、半分ほど読んだところです。本人も書いておられますが、病後で体調に不安があったけど平昌へ行かれたんですね。
    男子シングルだけでなく、女子シングル、ペア、ダンスも観戦されたようで少しうらやましい。
    最近はフィギュアスケート雑誌もその他の週刊誌もなるべく見ないようにしてるんです。事実でないことが平然と書いてあるし、読者を思う方向にもっていこうとする姿勢を隠そうともしない。(エア)関係者もうんざり。

    高山さんの著書はフィギュアスケート選手全般にリスペクトが感じられていいですね!

    • Jun より:

      みつばちさま

      半分も読まれましたか!私はまだ全然です。

      私も昨年7月にWordpressにブログを引っ越してからは書籍・雑誌の紹介は本当に減ってしまいました。
      単純に雑誌の数が減っていることもあるんですが、私の興味が、試合を見る方にシフトしていっているのもあります。
      その方が皆さんと自由に意見交換できますし、以前よりもコメントもいただけているので、この方向性でいいのかなという気がしています。