Ice Jewels Vol.10(2)

Ice Jewels Vol.10(2)

93頁の「フィギュアスケートとAI」というコラムが興味深い内容だったので、先にこちらをご紹介します。執筆者が明記されていなかったので、様々な取材を元に編集部がまとめた内容と思われます。

まず、フィギュアスケートの審判要素は、(1)テクニカル・パネルによる実施要素の認定、(2)ジャッジ・パネルによるGOEの判定、(3)ジャッジ・パネルによるPCSの採点、この3つに分かれます。

この中で(1)について、「最もAI化しやすい部分です。判定している多くの項目が、回転数を数える、関節の角度等から難しい姿勢か否かを判断するといった機械的な評価だからです」と説明しています。「動きの中で3次元的に体の状態を解析して数値化し、あるいは姿勢をイメージ(画像)のまま評価して判定することは、器械体操で可能なのであれば、フィギュアスケートでもできないことはないでしょう」と、その実現可能性も指摘しています。

コラムの中では、大きく分けて、AI導入に向けての「4つのハードル」が挙げられています。

・フィギュアスケートでは、体操(床は、12×12m)よりもはるかに広い空間(60×30m)で演技しているので、体操で使用する機材の10倍以上の台数あるいは、自動追尾などの追加機能が必要になる。

・ISUとしては採点システムをAI化するのであれば、シングル、ペア、アイスダンスすべてを同時に行う必要がある(と考えている)。一人で滑る競技よりも、二人で組んで滑る競技、多人数で滑る競技は画像処理による評価等が数段難しくなる。

・あるレベル以上の競技会には導入するけれども、それ以外はこれまで通りということであれば、人間のジャッジング能力が低下したり、なり手がいなくなったりするという事態が考えられる。導入にあたっては、ISU選手権大会や主要な国際競技会だけでなく、小さな国際競技会や各国の国内選手権、さらには地方競技会でも導入可能なシステムが必要になる。

・ルールを変更した際に、システムの変更が必要になるが、その費用や時間がネックになってルール改正ができないということになっては本末転倒。AI審判の導入には、膨大な開発費や維持費が必要になる。導入の方向に動くとすれば、テクニカル・パネルによる判定が微妙な場合に、何らかの形で支援するということから始めることになる。

紙幅の問題があるのかもしれないですが、「視野の狭いご説明」だなと感じます。まず、リンクと床を比較していますが、体操競技は床だけじゃありません。男子は6種目、女子は4種目、全10種目あるので、フィギュアスケートが体操よりも10倍以上の台数や追加機能が必要になるというのは、まったくもって根拠の無い数字です。もちろん、体操ではいきなり全10種目でAIを導入するのではなく、2020年までに5種目、2024年までに10種目を目標としています。

つぎに、「シングル競技だけでなく、ペアやアイスダンスも同時に必要」というのは、AI導入に反対するための詭弁ですね。シングルだけで十分です。ペアやアイスダンスの採点が揉めたことなんてそもそもあるんでしょうか?悪いけど、ペア・カップル競技とシングル競技とでは、競技人口も違うし、知名度もまるで違う。シングル競技の、特にジャンプの回転数とエッジの問題こそが、AI判定が目指すべき本丸ですよ。ここが正確に判定されるだけでも、採点競技としてのフィギュアスケートの信頼性は高まるはずです。

つぎに、「小さな競技会でもAIが必要」というのも、おかしな話です。例えば、サッカーのVARは、数年間のテスト期間を経て、2018年のロシアワールドカップで行われましたが、現時点ではプロリーグでさえ未導入の国の方が多数です。ただ、Jリーグも含めて、これからどんどん増えていくことでしょう。もし本気で導入する気なら、日本のスケ連が富士通のような企業と連携して、日本国内の地方大会で試験的に導入して、その効果をISUに上げていく、というのが自然な流れです。そして、やれると決めたら、ワールドやGPFあたりで導入する、ということになるでしょう。「マイナー試合にもAIを!」なんて誰も求めていません。

「人間のジャッジング能力が低下する」「ジャッジのなり手が減る」とか、まぁ、よく言うわ・・・と。「人間の判定能力の限界」というのももちろんあるんですけど、私はむしろ、「人間が恣意的に誤った忖度判定をすること」にこそ、採点競技における最大の課題があると思っています。

「ジャッジのなり手が減る」のも、「地方の競技会まで一斉にAIを導入しなきゃいけない!」という「きわめて誤った非現実的なイメージ」が頭にあるから、それが「問題」に思えてくるだけで、マイナーな試合はこれまで通り「人力判定」で行えばいいんですよ。だから、一定数のジャッジは必要だし、能力も落ちることはない。そもそもこれまでボランティアで行っているのに、「なり手が減ることの心配」なんて、何をいまさら?という感じがします。

素人の私がサラっと読んだだけでも、このコラムはツッコミどころ満載なのでした。まぁ、こういうことを議論すること自体がまずは大切だと思います。

では、また明日!

Jun

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コメント

  1. ととちゃん より:

    Amazonから やっと今日届きました。

    もちろん羽生選手の記事から読んだため、AI導入については未読です。ただ、junさんの感想でほとんど想像はつきました。要するに導入が如何に難しいか、を喧伝するのが目的なのかな、と。
    思わず奥付を見ましたが、協力は日本ではなくロシアスケート連盟でしたので(笑) 、特に忖度記事ではないのでしょうが…。

    羽生選手のインタからは、野村萬斎さんがコンティニューのパンフで予見した通り、スケート道を突き詰めていくような覚悟、姿勢が窺えました。勝利への執念が更に燃え上がったスケートの鬼、という印象です。それでいて、大学の勉強はきっちりこなし、バランス感覚に唸らされます。いつも思うのは、これだけの内容を引き出せるインタビュアーは誰だろう、と。やはり奥付にある折山氏でしょうか。田中さんの写真のクォリティと共に、待っていて良かったと思わされました。

    • Jun より:

      ととちゃん さま

      ルールに関しては、のらりくらりと、大した進歩もなく何十年もズルズル続くような気がします。

      まぁ、羽生君が引退したら、私もよほど魅力的な選手が出てこなければ見なくなるとは思いますので、「あと数年の我慢」という感じではいるんですけどね。

      「我慢」とは言っても、羽生君の現役生活をリアルタイムで見られる幸せの方が大きいです。まずは、アイスショーを楽しみたいですね。