
「・・・フリーとはまた違う緊張感、そして、フリーとは違って、回復する余地がないのが、ショートプログラムの特徴で。非常にいろんなものが詰まっているからこそ、フリーよりも難しいんだなっていうことを、今回のツアーを通して改めて感じました。その難しいものを、その前に、ピアノ(コレクション)までに4曲やって。すでに、ああ、辛いなって思いながら出ていく難しさと、あとはやっぱり照明付きで、これは僕の希望だったんですけど。照明付き、そしてまたその会場によって、リンクサイズが変わるということもあって。非常に調整は難しかったですが、氷の職人さんも含めて皆さんが一生懸命やってくださったおかげで、なんとかできました」
羽生さんのコメントとしては、初めて聴くような内容ですね。「フリーの方がエレメンツも多く、時間も長いし疲れるんじゃないの?」というのが私の素人的な発想なんですけど、たしかにバラ1の場合、休める部分が皆無だし、一つのミスに対するストレスも大きいのかもしれません。「試合じゃないのに!」とも思うんですけど、それぐらい自分自身に厳しい姿勢でこのショーに臨んでいる証拠です。そもそも、それぐらいストイックな性格でなければ、「ワンマンショー」なんて考えもしませんからね。
「あんまり孤独とは思っていないんですよね。ただ、戦わなきゃいけない時だったり、もちろん人間誰しもが持っていることだと思うんですけど、その全てを共有できるわけではない。とても悲しいことだけれども、自分の苦しみだったり喜びだったりを、全部共有できるわけじゃないじゃないですか。それってみんな孤独だなって思っていて。でも、だからこそ、人間は言葉というものを使うし、文字を使うし。Novaで表現したかったのは、たとえその世界で一人だったとしても、文字や記録や音とか、そういうものがある限りは、一人じゃないんだっていうことを表現したつもりなので。僕が孤独だとかっていうのは、あんまり思ってはいないんですけど、最近は。ただ、皆さんの中にある、ちょっとした孤独、みんなが気づいてくれない孤独みたいなものに対して、いや、大丈夫だよ。っていう気持ちで表現したつもりです」
難しいテーマだなと改めて思います。たしかに、人間は「表現する手段」を持つことで自分の存在を世界に知ってもらえるし、その意味では孤独ではない。でも、私自身は孤独については少し違う視点で見ていて、まさに表現できる「場」としてのSNSで私たちは「お気持ち」を簡単に表明できて、それに対する反応が数字で確認できるからこそ、「孤独恐怖症」に陥らざるをえないのが、いまの我々ではないかと。人と簡単につながれるからこそ、つねに他人のことが気になり、そしてSNS上で自分よりも「キラキラした人」を見ることで、「自分なんて世界から必要とされていない取るに足らない人間なんだ」と孤独のループにハマっていく。
安野貴博さんと伊沢拓司さんの対談動画で興味深かったのは、安野さんが台湾のオードリー・タンさんに会いに行った際、「XのTLを見なくて済む機能をもつプラグイン」をオードリーさんから薦められたというエピソードでした。あんな大天才ですらTLに気持ちが左右されることがあるのだなと。
「人間は承認欲求から逃れられないのだから(だからSNSを手放せない)、それをビジネスチャンスとして利用せよ!」という『「マウント消費」の経済学』という本をパラパラめくりつつ、でも私自身の実感としては、「人とつながればそれがストレスになる。SNSは人を幸せにしない」と断言する森岡毅さんの考えに共感する部分が多いです。まぁ、時間ももったいないですからね!
羽生さん曰く、現時点でIce Storyのアイデアは「ゼロ」とのことですが、それもそのはずで、まずはリフレッシュして3月のノッテに向けてコンディションを整えていただきたいです。
ただ、これだけステージでハイテク技術を駆使した演出ができるとなると、今後のIce Storyでは、「近未来」をベースにしつつ、「個人と社会の関係」あるいは「孤独の再定義」とか、その辺りがテーマになってくるような気がしています。
では、また明日!
Jun
