2021年3月11日発売。定価「7,150円」。
黒ツヤの春ちゃんはケースになっていて、これを外すと、モノクロの「花は咲く」の本体が登場します。この衣装は他のショープロでも着用していましたが、この写真は14年6月にNHKの番組用にアイリンで撮影されたもの。他のショットも68~75頁に収録されていて、能登さんによると「今となっては貴重な写真と思い、多めにセレクトしています」とのコメントが添えられています。貴重だからこそ、本体の表紙にも採用されたのでしょう。
冒頭に能登さんによる巻頭メッセージがあり、一言でいって名文です。どうして写真家の方は、ペンを持つことが本業ではないのに、皆さん巧みな文章を綴られるのだろう。おそらく、人並外れた観察力があって、長年に渡って瞬間瞬間を捉えることに命を懸けてこられたからこそ、イメージしているものが美しい言葉になって湧き出てくるのでしょうね。
少し長めにご紹介します。
・・・あれから10年、復興は途上ながらも着実に進み、結弦くんは想像を超えた存在になった。
その間も多くの災害が起こり、現在も新型コロナウイルスの感染拡大で世界中が不安を抱えている。
新たな生活様式や行動を余儀なくされ、フィギュアスケートの試合はアイスショーは元より、
写真展なども開催しづらい状況の中、大きな写真を手元で鑑賞できる写真集を作ろうと考えた。
・・・発表する機会が少ないエキシビションやアイスショーの写真には、競技とは違った魅力がある。
競技の制約を離れ、自由に舞う結弦くんが演じる姿は、暗闇の中で真っすぐな光を放つ。
その10年間の軌跡を節目の日に届けることが、先の見えない現在、確かな意味を持つように思えた。
気落ちした心が優しく照らされ、癒されることで、それぞれが輝きを取り戻す。
この一冊がそのきっかけや一助になれることを願いながら、僕はこれからも光を求め、追いかけていく。
「光 – Be the Light -」というタイトルに込められた意味が分かります。この写真集は、羽生さんの光り輝く軌跡を回想するだけのものではなく、東北で被災された方だけに捧げられたものでもない。不安を抱え、気落ちしたすべての人たちに対して、つまり私たちみんなが再び輝きを取り戻すことを祈って、能登さんが届けてくれた一冊と言えるかもしれません。
さて、写真集の構成は、2011年から2020年まで、1年刻みでアイスショーでの羽生さんを振り返る内容です。各年の最初のページに、そのシーズンの大まかな出来事と、採用された写真の場所・プログラムと能登さんの補足コメントが添えられています。個人的に、『YUZURU』では能登さんの味のある一言コメントが添えられていて大好きだったのですが、『YUZURU II』ではこれがカット。今回、とても読みやすい形で復活してくれて嬉しいですね。写真とこのコメントを往復しながら、じっくり楽しむことができると思います。
私もそれなりにフィギュアスケート関係の書籍・雑誌は収集してきたつもりですが、本書の特に前半部分に、初めて見たショットがいくつかあります。例えば、2012年7月のTHE ICE 名古屋(26~27頁)、2012年DOIオープニング(44頁)、同年FaOI福岡オープニング(45頁)、前述の2014年6月仙台でのNHK『花は咲く』番組収録(68~75頁)辺りが印象的でした。
写真の並びは時系列的ではあるんですけど、ショーやEXの写真だけを形式に則って並べているだけではなく、試合会場入り時の代表ジャージ&リュック姿、FaOIのリハーサル時のほの暗い照明の下での練習着姿など、ページをめくっていてまったく飽きさせません。そうそう、ハビもわりと登場しているので、その部分も必見です。
羽生さんの素晴らしいショットを届けてくれた「神カメラマンたち」の写真集とは、正直あまり比較したくありません。本書は、書籍というよりは、もはや美術品のようなクオリティで、10年の歴史の重みと、羽生さんと能登さんとの関係性がギッシリ詰まっています。じっくりと時間をかけて鑑賞するに値する内容で、決してお高くないと思いますね。これほどのものを届けてくれて、ありがとう!と感謝の言葉しかないです。
では、また明日!
Jun