「ELLE JAPON」について、写真に関してはすでに多くの方が語っていらっしゃると思うので、私はインタビュー部分のみコメントします。
「芥川賞作家・町屋良平によるINTERVIEW」という形式になってはいますが、内容的には「対談」に近い部分もあるかなと思います。というのも、競技者時代とプロ転向後との違いについて、
「これまでは原稿用紙に1万字4章で書いてくださいと言われていたものを、今は2万字でも20万字でもいい、何章でもいいという状況」
私の知る限り、羽生さんのこのような「文筆」に関する例え話を聞いたことが無いのですが、冒頭いきなりこのような発言から始まったので、町屋さんと価値観を共有できるように、羽生さんが歩み寄って説明しているんですね。おそらく大学の卒論執筆の経験も生きているはずですが、でも、自分の卒論の話をいちいちしない所に羽生さんのスマートさを感じるわけです。
町屋さんは、過去のネット記事によれば「村主章枝さんをきっかけにフィギュアファンになった」という方のようですが、間違いなく羽生さんの現役時代の状況を承知しつつも、プロ転向後の活動に話を絞り込んでくださっていて、スッと内容に入っていけました。4Aがどうだとか、五輪の思い出話とか、そういう質問を何の脈絡もなく投げるような「素人臭さ」が無いので、二人が今回初めて顔を合わせたとは思えません。
「人生にゴールがあるとしたら、僕はそのゴール=スケート人生だと思っているので、スケートのためではあるのですが、ある意味人生を豊かにするために学んでいるという感じです」
一見すると何気ない発言なんですけど、「ある意味」という但し書きがありつつも、「人生を豊かにするために学んでいる」というのは、他のインタビューで聞いたことがないです。よくあるインタビューだと、人生は人生でも、「プロスケーターのさらに次の人生」を素朴に聞いてきますよね。コーチになるのか?振付師になるのか?リンクを作るのか?等々です。大人の事情で話せないこともあるだろうし、そもそもプロとして頑張りはじめた人に、そりゃ無いですよね。まぁ、悪意はまったく無いのでしょうが。その意味で、さっきの繰り返しになりますが、このインタは、細かい部分に突っ込んでいるようで、話がヘンな所に拡散しないように抑制が効いていて、読後感が爽やかです。
「・・・僕が一番大切にしている部分が9歳のころの自分が持っていたもの。だからこそ、それを手放してしまったら僕は社会にのまれて適応していくだけなんだろうなと思うので、なんとかそれを握り締めている状態です」
「9歳のころの自分」という話が出てくるようになったのは、4Aを「天と地と」の構成に入れるようになった頃からか、あるいは北京五輪の演技後のコメントだったか自信が無いのですが、単に「アクセルジャンプの理想形」ということを言ってたんじゃない、というのが今回の発言で分かって、実に興味深いですね。
幼少期に元来自分が思い描いていたスケートの理想像があって、でも競技者時代は、社会(ジャッジによる採点)と折り合いをつけながら自分を順応させていった。このインタではもちろん語られていないですが、そもそもルールブックに書いてある通りにやっても採点がデタラメというのが問題だったんですけど、だからと言って、プロに転向してこの1年何もかも思い通りに行ったというと決してそうではなく、改善すべき課題が見つかったということなのでしょうね。
今回のインタは、スポーツライター・記者、あるいはテレビ局のアナウンサーのインタとは一味も二味も違うので、いろんな気づきがあると思います。ぜひご一読ください。
では、また明日!
Jun