「フィギュアスケートファン 2019-2020」

「フィギュアスケートファン 2019-2020」

2019年12月23日発売。定価998円。

全95頁。このボリュームで、税込み価格で1,000円を切るという驚異的な価格設定で、利益は出るのでしょうか?

スケ連の「お墨付き」は無し。したがって、ゆづ尽くしの誌面構成ではなく、国内・海外問わず、幅広くスケーターを扱っているので、読み手を選ぶ内容です。今回、個人的に注目していたのは、Number以外ではあまり見られない高須力さんの写真だったんですが・・・。写真はいいんだけど、画質の粗さが気になります。「応援ブック」並みに粗い感じがして、羽生さんの写真目的ならば、購入は慎重に検討された方が無難でしょう。

つぎに注目していたのは、伊藤聡美さんのインタビュー。インタの中で登場する「今季の衣装」としては、羽生さんのOrigin、樋口さんのBird Set Freeとポエタ、ボーヤンのThe Path of Silence、メドベのSAYURIです。

例えば、樋口さんのポエタは、振付師のマッシモ・スカリの送ってきたコンセプトと画像をベースにまとめたとのこと。ただ、選手本人のイメージか、振付師のイメージのどちらを取り入れるかというと「選手による」そうです。「羽生選手や紀平選手は自分のイメージを優先しているようです」と語っています。

ちなみに、ボーヤンの衣装は、中国語のできる友人に来てもらい、ボーヤン本人と直接話をしたそうです。それプラス、振付師のリショーさんから「プログラムのコンセプト」がメールで届いて、「ラストハートビート(最後の鼓動)がテーマで、『彼』が生と死を彷徨っている。光に向かって行きたいのに叶わない。現生には戻ることができない」というかなり重い世界観とのこと。「左胸と背中に広がっている模様は、血管にも見えるし、森で彷徨うボーヤンを思わせる木の影にも見える。そういったイメージです」。

今回、ボーヤンやメドベといった、海外のトップスケーターの衣装も担当していますが、興味深いエピソードを紹介してくれています。

――外国人選手との仕事は、言葉の問題も含めて大変ですよね。

「自分の考えがはっきりしているので、逆にやりやすいです。日本人は悩むんです。例えばA案とB案で悩んだとして、『この間にしてください』とかよく言われます。間って何だよと(笑)。メドベージェワはそういうのは一切ありません。『これは嫌だ、これはいい』というように早いんです。自分の似合う形や長さがわかっている」

――襟の白(メドベの案)もそうですよね。

明確な理由を持っていて、デザインを変えるにしても説明してくれます。袖丈はこれくらい、このもっと上を強くしてくれとか、細かい指示をその場で出す。袖は実際に見ると手がかぶるくらい長いのですが、腕を長く見せたいらしく、本人がこだわっているところです」

衣装の「制作秘話」については、ポエタとSAYURIが大半を占めているので、この分野に興味のある方は、必読です。

最後に、あまり期待していなかった本田武史さんのジャンプ解説がかなりのボリュームで、テレビとはまったく別物の専門的な内容に仕上がっています。羽生さんの4Aの部分をご紹介します(*インタはファイナル前の、11/29に実施)。

――羽生選手の4回転アクセルは、現実的には可能なのでしょうか。

可能だと思います。僕も4回転アクセルの練習はしていたんですが、あ、これはいけるなという感覚まではいけたので。今の羽生選手のアクセルを見ると、全然余裕でいけるでしょって思います。この前のNHK杯のインタビューで、軸の移し方であったり回転力のつけ方の話をしていましたが、それはすごく大事なところなんです」

トリプルアクセルを降りるときは、『開いて降りてくる』という感覚なんですけど、4回転アクセルは『落ちてくる』感覚なんです。まだ締めたいのに、もう氷に近づいてきているという感覚があるので、そこの難しさですよね。4回転までは回ると思います。4回転半まで持ってくる最後の回転というのは、その部分だけに回転力をつけることはできないので、上がったところからどれだけ速く回れるかにかかってくる」

羽生選手が話していたように、体重移動であったり、高さがどれだけ必要なのか、幅を跳んじゃうと今度は高さが出ないとか、高さにプラスして体重移動もして回転力もつけるというのは、すごく難しいです

ジャンプに完全特化したインタビューで、男子のトップ選手だけでなく、女子も日本勢・ロシア勢も含めて、注目所はほぼ網羅しています。そうそう、ここだけは紹介しておきましょう。宮原さんのジャンプについて、こうコメントしています。

――ジャンプは回転不足が取られることがありますが。

「ジャッジの方によって全然違うというところもありますし、跳び上がる前にちょっと回転を始めてしまっているところから、回転もギリギリというので取られているという感じなので、そこはあまり気にしないで、彼女らしく堂々とプログラムで見せるのが一番大事かなと思います。え、これが回転不足を取られたの?というものもありますし、これ絶対取られるでしょうというジャンプが取られていなかったりもあります。そこはスペシャリストの仕事なので、選手がやれることは自分の演技をすることだと思います

本来は、「え?これが取られたの?」というのを、テレビ中継で解説者は自由に正直に発言していいと思うんですよ。少なくとも、サッカーやプロ野球では、それは当たり前です。

これを、「サッカーや野球はプロスポーツだからいいんだよ。フィギュアスケートはアマチュアスポーツだから公平でなければならない」なんて、もしかしたらスケ連から各メディアにお達しが出ているのかもしれないですね。

でも、スポンサーもたくさんついて、地上波で生放送するコンテンツが、いまさら「アマチュアスポーツですから」なんて言い訳は通用しません。何より、選手は命懸けでやっている。「頭の中がアマチュア精神なのはスケ連(およびISU)の人間だけでは?」と思いますね。プロ意識を持って仕事をしてくれ!と言いたいです。

では、また明日!

Jun


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コメント

  1. 名無しの猫 より:

    Junさん、連日のレビュー、ありがとうございます。

    ぼちぼちと買ってはいるのですが。どんどん出る本に、今ひとつ気持ちがついていけて
    なくて、私がいろいろモヤモヤしたところでどうにもならないこともありますし・・・。

    私のテンションが高いと、羽生さんの表紙のムック本はガンガン買うんですが、まぁ今回
    はぼちぼちなんです。それは単に負けた試合の本は欲しくないというような単純な理由で
    はないのですが。

    でも、マガジン、通信は買いますし、あとはキスクラくらいですかね。今回はメモリアル
    やプリンス他までは手が伸びないかもしれません。
    買い足すのに、Junさんのレビューを参考にさせていただきます。

    さっきアマゾンで1月16日発売のサンケイスポーツ LOVEフィギュアスケートが、
    ウィンタースポーツベストセラー1位になっているのを見ましたけど、羽生さんの、雪の
    舞うSEIMEIさんの表紙は確かに素敵なんですが。サンケイさんなら、全日本詳報の
    表紙は引退の方か優勝の方でよいのでは?とも思います。
    書店での展開が少ない本なら、中身を見ずに買う勇気はありませんね。お金がもったいな
    いのではなく、精神的なダメージを受けたくないのです。
    (信頼できるカメラマンさんの写真集とかは別です)

    でも羽生さんのムック本が次々に出るのも、永久に続くことではありませんから、良いも
    のを買い逃したりすることがないようにしたいです。
    今後もレビュー、よろしくお願いします。

    • Jun より:

      名無しの猫さま

      雑誌は買ってはいるけど、どうもめくる気にならない・・・というのは、その気持ちよくわかります。

      ただ、今回の「フィギュアスケートファン」は、中身としては他で読めないものがけっこう収録されているので、安いし持っておいてもいいかなと思います。

      ゆづファンの「資料用(あえてこう書きます)」として、通信とマガジンはマストアイテムで、全号持っていないと話にならない。これにプラスして何を買い揃えるかなんですが、たまに発売されるジュエルズと、大判のFIGURE SKATERS。ここまではネットでポチっても安全なグループです。本来はこのグループのキスクラは今回ややインパクト不足です。

      一方、老舗は信用できないんですよね。WFSはまったく買わなくなり、Lifeも毎号は買わなくなりました。NumberとSportivaはライターがダメダメで、写真次第という位置づけ。日本男子の若手について情報収集したいならQuadruple。こんな所ですかね。

      Memorialは買うつもりではいるので、入手次第、レビュー予定です。

  2. ととちゃん より:

    フィギュアスケートファンのご紹介ありがとうございます。
    正直、こんな本が出ていることさえ知りませんでした汗。自分が書店で見つけても買わないだろうなと思うのに、junさんが紹介して下さると、とても魅力的に感じる不思議!ここは、というポイントを押さえて伝えて下さっているからですね。いつも感謝しています。

    伊藤さんが言う、A案とB案の間を提案する選手って誰だろうと、思わず考えてしまいましたが、羽生選手じゃないことは想像がつきます。あと、本田さんは語る媒体と語らない媒体(語れない?)がありますね。なんだかTVで言えないことを、小さい雑誌で語ってすっきりしているような…。本田さん、もう一歩頑張って!と言いたいです笑。
    まあ、スケ連の力は強大なようですし。意に沿わないメディアは会場に入れないという情報もあり、さもありなんと思いました。

    • Jun より:

      ととちゃん さま

      「A案」「B案」の話、誰でしょうね・・・。伊藤さんほどの第一人者とはいえ、強豪選手の衣装だけを作っているわけじゃなくて、誰のことを指しているのか正直わかりません。

      ただ、私の勘では、「これは男子スケーターじゃないかな?」と思っています。よほどファッションに関心があったり、プログラムにスケーター本人が関与していない限りは、「プロにお任せ」という感覚になるんじゃないかと。アスリートですから仕方ないですけどね。