仕切り直しで、『プロローグ』横浜公演(2日目)のライブビューイングの感想をまとめてみたいと思います。
ライブビュー会場は、TOHOシネマズ府中で自宅から30分ほどの場所です。途中、京王線の飛田給駅でドドっと乗客が降りたので、味の素スタジアムか武蔵野の森メインアリーナで何かイベントがあったのかもしれません。あの駅を通ると、やはりContinuesや全日本を思い出さずにはいられません。
TOHOシネマズに入ると、館内には『プロローグ』に関するポスター・立て看のような掲示物は一切なく、上に貼った電光掲示の「プロローグ・ライブビューイング・横浜公演」という文言しかありません。「羽生結弦の『羽』の字」すら見当たらず、館内誘導のスタッフも「羽生結弦」というワードを口にすることもなく、その点徹底されているようでした。チケットにスクリーン番号・座席番号が印字されているので不安は無かったですが、他の映画目当てで訪れたお客さんには何のイベントのことだか、そもそもフィギュアスケートのライビューということさえ、さっぱり分からなかったはずです。
開場時間は、開演15分前ぐらいだったでしょうか。スタッフにチケットを見せて、手首の検温のみで、荷物検査・本人確認は無し。まぁ、ギリギリの開場でしたから、そんな細かなチェックは物理的に無理でしょう。トイレに寄って席に座ったら、5分ちょっとで開演という感じでした。ちなみに、スクリーンに流れるCMは、アマビエちゃんの「注意告知」の動画と、NUMBER GIRLの「ライブビュー」の告知のみ。彼らの「再解散ライブ」もぴあアリーナMMのようですね。
最初にオープニングの映像が流れるんですが、皆さんもご存じの通り、テレ朝所有のウォームアップ映像の詰め合わせという感じです。これが意外と長い尺で作られていて、何試合分使われているのか特定が難しいほど、多岐に渡っているようでした。テレ朝でも、フジでも、NHKでも、ここ数シーズンは羽生さんの試合があると、ウォームアップ映像をかなり早い時間帯から配信(放送)していましたけど、まさにあの緊張感を再び体験することになりました。ライブビューイング・CSテレビ視聴の場合、画面上でこのウォームアップ映像「だけ」をしばらく見ることになるので、ライビュー&テレビ組の方が緊張度は高かったんじゃないですかね?
そこからの6分間練習。初日公演の情報が頭にあるので、それが分かった上で普通に見られましたが、これ、事前情報ゼロの初日組の方はビックリしたでしょうね。「天と地と」が流れる中で「SEIMEI」の衣装を着てのウォームアップというのも不思議な感覚でしたが、そういえば、よくよく考えてみると、「氷上で羽生さんだけが滑る6分間練習」というのは初の光景ですよね。試合の6連では、他の選手が滑っていますし、テレビの放送だとカメラが頻繁に切り替わり、選手の演技構成が画面に表示されて、実況・解説がひたすら喋っている。先だっての「SharePractice」で羽生さんの練習だけを見ているとはいえ、これは確かに「ファンが見たかったもの」だよなーと感じました。
さて、「SEIMEI」ですが、4Sと4T、それから3Aを3本跳ぶという情報を事前に知っていたので、そこまで緊張なく観ることができました。4Sは着氷後の若干のスリップによる転倒。怪我につながるような転倒ではなさそうですし、他のジャンプは素晴らしかったので、コンディションの良さはよく分かりました。
「CHANGE」では、中村滉己さんによるソロ演奏の後、楽曲が館内に流れます。伊藤聡美さん制作の衣装も素晴らしいですよね。赤と黒と言うとマスカレイドですが、曲が「和」をベースとしているので和の雰囲気を醸し出しつつ、でも「SEIMEI」との「対比」が面白い。世界で羽生結弦さんしか着こなせないこの衣装での「CHANGE」は、YouTubeでの「CHANGE」とはまた違ったダイナミズムがあって、別物という感じがします。
現地会場のお客さんのリクエストに応えた、「Let’s Go Crazy」と「花になれ」はある意味でメドレー形式での披露。新村香さんとの掛け合いもお馴染みで、マイクを取りに行ったり置きに行ったりの光景は、Continuesの経験が生きていますね。てか、初日にレツクレやってるのに、なんで「紫」のリクエストが多いの?と思ったんですが、初日は放送が無かったから、ということなんですか。「悲愴」はContinuesで衣装アリで少し披露しているとはいえ、八戸は3日あるので、ぜひお願いします。
「Hello, I Love You」は意外なチョイスでした。これを予想していた人は世界中でもほぼ皆無ではないですか?正直、もう少し長い尺で見たかったという気持ちもありますが、その前の「花になれ」が素晴らしかったので、バランス的には今回のバージョンがベターでしょうか。
「ロミジュリ」は、間違いなく今回の公演の山場でしょう。この旧ロミジュリは、ニースの映像ばかり見てきているので、11年GPF(ケベックシティー)は新鮮でした。ちゃんと見たのは初めてかもしれません。そこに来て、ドンと同じ衣装を着て羽生さんが登場するわけですが、映像の17歳の時とは身体つきがやっぱり全然違いますよね。衣装の手直しは「していない」とは言っても、まったく違います。画面上で映像だけを見てきて、スパっと本人に切り替わるので、ライビュー・テレビ組の方がその衝撃は大きかったのではないかと。そして、2022年仕様のスケーティングを見ていると、動きに余裕がありつつ緩みが無く、滑らかで力強い。大人のスケーターになったよなぁ・・・と感慨深く感じました。
「いつか終わる夢」(FFX)は、YouTubeで公開された「夢見る憧憬」と対を成す作りになっていましたね。FFXは、自分が学生の頃に、それこそ裏ボスも全部撃破してレア武器を全て揃えるぐらいやり込んだんですけど、逆にアイテム収集や難敵討伐ばかりに頭が行っていて、ストーリーにいまいちハマれなかった記憶がありました。それが、数年前にゲーム実況動画で久々に触れると、人気作なのがよく分かりました。特に「親子関係」の意味だったり、「神話」を打ち砕くための自己犠牲的行動だったり、仲間の存在だったり、涙無しでは見られない場面もあります。
少し脱線しますが、FFやDQのようなRPGはパーティプレイが基本なので当たり前のように仲間がいるわけですが、私がここ最近集中して見ている「龍が如く」シリーズの「6」までは、主人公の桐生一馬の孤独な戦いが物語の中心のアクション・アドベンチャーゲームで、彼が何もかもひとりで抱え込んで物事を解決していく話になっていました。そこで、「7」は春日一番という新主人公による作品となり、仲間にとにかく助けられる話に切り替わって、ゲーム自体もRPGになってしまったんですよね。
ある意味、羽生さんのアマチュア時代の競技生活って桐生に近いものがあって、桐生の周りは敵だらけで散々嫌がらせを受けながら、数少ない友人のサポートを受けつつ、結局は彼の超人的な強さによって敵を打倒していくというストーリーになっています。でも、いまの羽生さんには「競争」する相手はおらず、新しいものを創造していく立場で、だからこそ、チームで、パーティで物事を形にする立場になりました。羽生さんがリーダーでボスなわけで、物販の細かいルールから、ライビューの会場追加から、イベント運営のあらゆる部分に、彼の意見・判断がストレートに反映されていきます。だからこそ、自身の考えを形にしていってくれる仲間の大切さを実感しているのではないでしょうか。
「僕なんかのスケートを」という発言にいろいろ意見があるようですが、ファン向けの謙遜という意味だけでなく、「大勢のスタッフの尽力が無ければ、こんなに短期間でこのイベントは実現できなかった」という意味も込められてるのでは?という印象を受けましたね。
さて、話を戻すと、「いつか終わる夢」と「春よ、来い」はプロジェクションマッピングとスケートの融合という、新たな試みでしたね。東京五輪のゴタゴタで取り上げられたMIKIKOさんと、このような形で羽生さんとのコラボが実現して、嬉しく思いました。このプロジェクションマッピングは、現地会場でもスタンドの上の方の座席だったり、あるいはテレビ視聴者やライビュー視聴者こそその魅力を堪能できるという意味で、アイスショーの新たな楽しみ方を提示してくれたと思います。でも、じゃあ、これを他のスケーターでも簡単に「模倣」できるかと言うと、スケーティング技術の高さが大前提ですし、そもそも会場の「箱」がある程度の規模じゃないと、まったく映えない。そう容易にはできないような気がします。
「パリの散歩道」は、FaOIのアンコールでの音源を活用しているでしょうか?ソチ五輪の金メダルの原動力となったプロで、彼の「出世作」と言えるので、やっぱり外せないですよね。しかし、今回の黒のTシャツかっこいいですよね。これから真冬になっていくというのに、パーカーよりも黒Tの方が欲しくなった自分がいます。
帰路でいろいろ考えていたのは、今回のような「完全単独ショー」という形式は、やっぱりコロナ禍による産物という部分もあったかと思います。コラボアーティストやプロスケーターをバンバン呼ぶのは躊躇せざるを得なかっただろうし、あるいは海外スケーターの招聘という点では、ウクライナの情勢も影響しているかもしれません。
でも、そんな難しい状況で、しかも準備期間は半年も無かったのに、こんな前人未踏・前代未聞の素晴らしいショーを実現させてしまった。「もう、来年以降のショーも、羽生さんだけで良くない?他のショーを見る気にならないよ?」という気持ちもありつつ、でも、もしそうなると、本人の負担が大きすぎて、公演数を絞らざるをえない。テレ朝さんのVTRのストックも限界があるだろうし、ますます本人が出ずっぱりになる恐れもあります。
いやぁ、どうするんでしょうねー。まぁ、「これじゃなきゃダメ!」と頭でっかちにならず、いろんな形式の羽生さんのショーを楽しむ気持ちでいるのが良いのかな、という気がしています。
では、また明日!
Jun