今日も「Quadruple」のレビューをやっていきます。今回はMIKIKO先生のインタをご紹介しますが、読む前からある程度予想できていたとはいえ、すごい内容です。まず、「RE_PRAY」に関する制作過程について、彼女はいろいろな「仕掛け」を明かしてくれていますが、個人的には、羽生さんとの共同作業を通じて、「MIKIKO先生が羽生さんをどう見ているのか?」という部分が興味深く、例えば、コーチや振付師とはまた違った観点で彼の凄さを語ってくれています。以下、厳選してピックアップしてみます。
(ぴあアリーナMMでは、2021年にPerfumeのライブで床面を大きく使って映像を投射したことがあり)・・・このときは、まだコロナ禍で、ようやく入場制限が緩和されて、最大収容人数の50%まで動員が許容されるという条件のなかで行ったライブでした。その条件を逆手にとって、アリーナにはお客様を入れずにスタンドだけにして、なんとか50%の基準を満たせるのではないか、と考えたんです。
そうすると、アリーナの全面をステージにできるので、まるでアイスリンクになるようなイメージで、フロアにLEDビジョンを設置したんです。そのときは、まさか羽生くんとコラボレーションすることになるとは思ってもいなかったのですが、先にPerfumeでいろいろなことを勉強して、そのあと同じ形状のリンクというものを演出するという流れになったので、順序的に私にとってはすごくよかったです。
Perfumeの公式YouTubeチャンネルから、このライブの動画を貼ってみました。2021年8月14日・15日実施ですから、羽生さんは北京五輪に向けて準備をしていた頃ですね。当然まだ羽生さん自身もプロ転向後のショーのことなんて考えていない時期ですが、ここから1年後、MIKIKO先生と仕事することになって、こういう映像を一緒に見ながら、ステージの演出を相談していたのでしょう。
この映像を見る限り、アリーナの全面積がステージというよりも、スタンドとステージの間に照明含めた様々な装置が設置されていて、むしろ東京ドームの「GIFT」のような配置を思い出します。
(RE_PRAYの)公演のタイトルは、ゲームをやり直す意味の「リプレイ(replay)」に、祈りを意味する「プレイ(pray)」を掛けていますが、もともと、彼のなかで「RE_PRAY」という言葉があったと思います。それで、ブレストしていくなかで、「1部のコンセプトは、Lのほうのプレイにするのもいいよね」というアイデアが途中から出てきたのかな。
ショーのコンセプトのすべてが元から羽生さんの頭の中にあったわけではなく、二人で相談しての「共作」の意味合いが非常に強いですね。プログラムのセットリストは羽生さんが決めて、ストーリーも羽生さんが書き下ろしているんだけど、それをショーとして具体的にどう成立させるかは、やはり彼女のアイデアに頼る部分が大きい。
プログラムを「並べた感」が、既存のアイスショーはもちろん、「プロローグ」と比べても、「RE_PRAY」にはほぼ皆無で、シームレスに感じられる。プロの演出力というものを改めて実感させられますね。
・・・もともと私は一国民としてフィギュアスケートを見ていただけだったので、競技についてはまったく詳しくないんです。今回の演目で言うと、『破滅への使者』は高難度ジャンプやスピンがいくつも入っていて、それこそ試合に出してもいいくらいの構成でつくられているんですよね?それを毎回見るじゃないですか。そうすると、跳ぶタイミングや、難しそうなポイントがだんだんわかってくるので、本番で見ているときも「あぁ、お願い!」という気持ちになるんです。もし、私がお母さんだったら、見ていられずに「外に出たい……」みたいな、それくらいの怖さですよね。
・・・でも、ファンのみなさんは、ここに感動を覚えているんだな、とファンの方も一緒に戦っているという意味も同時に知ることができました。
お母さんの気持ち・・・。先生はお若いのでそこまで羽生さんと世代的に離れてはいないですけど、母じゃなくても、それこそブライアンとかジスランみたいなおじさん達でも、羽生さんの演技中はいつも「あぁ、お願い!」って感じでしたよ(笑)。それでジャンプが成功すると、一緒に飛び上がってましたから。
で、このインタの別の箇所で、彼女は「RE_PRAY」の舞台裏での羽生さんの姿は「(客席の一番後ろから全体を見ているので)見ていない」とおっしゃっていますが、まぁ、あの呼吸困難で床を這っている姿を「彼女が知らなかった」からこそ、このワンマンショーの構成に「Go!」を出せたのかもしれません。そう考えると、身近に意見を言えるような「スケート関係者」がいたら、あの短いインターバルを許していたかどうか・・・。あのショーを「当たり前のもの」と思ってはいけないですね。
『ダニー・ボーイ』と『カルミナ・ブラーナ』は、フィギュアスケートの振付師の方が振り付けされていて、あらためて客観的に見たときに、その素晴らしさを再確認できました。それから、驚いたのは、「RE_PRAY」の佐賀公演から横浜公演を経て、すごく彼の身体が変わっていたんですよ。・・・この1ヶ月の間、自分のなかでリベンジ的なところもあったのだと思います。「まだ変わるんだ!」というような。その間に『ノッテ・ステラータ』に向けて、振り付けなどもあったわけじゃないですか。さらに新しいナンバーのブラッシュアップもして。そんななかで、滑り方というか、力強さのようなものがすごく変わっていたので、「まだ進化しているんだな」という、ある意味で「怖さ」を感じました。
・・・彼の表現に対する追求の仕方、日々の過ごし方、お客様の前に立つための準備などは、もう、全人類が見習うべきだと思います。そういう姿を見せてくれてありがとう、そうだよねって。
・・・羽生くんのように、すごくファンの方がいて、金メダルも獲っている人が、いまだに表現というものに対して「まだまだ」と追求しようとしている。そして、あれだけの努力をしている、ということを知ったときに、「やっぱりそうだよね」と思ったので。ここまで命を削る努力をしないと人の心を打つ演技はできないし、人前に立っちゃいけないんだなって思います。
少し入れ替えました。競技者時代の羽生さんのアスリート魂が、プロ転向を経て、ますます真っ赤な火の玉のように燃え盛っていますよね。怪我を抱えながら平昌五輪を目指し、痛み止めを打ちながら滑り切った経験などが確実に生きています。そして、現在の彼は、プロスケーターとして「怪我による欠場」を自分に絶対に許さない覚悟で、「怪我を未然に防ぐ」段階から綿密かつ冷静に準備をしている。その妥協の無さを、MIKIKO先生も「怖さ」と表現されたのかもしれません。
このインタを読んで一言。MIKIKO先生と出会えて良かったね!と。「Ice Story 3rd」はもちろん、この強力タッグが永遠に続いて欲しい・・・そう願わずにはいられません。
では、また明日!
Jun