2024年7月3日発売。定価「1,390円」。
通常、この雑誌は「記者座談会」から読み始めるのがマイルールなんですけど、今回は話が違います。先行公開された表紙の写真から独占インタが何らかの形で行われただろうな?と想像していたので、冒頭からめくり始めたんですが、8頁には、
2017年夏、トロントでのメディアデー以来の単独インタビュー。羽生結弦は相変わらず元気で、闊達で、やたらと明るくて、そして男っぽくなっていましたよ。(インタビューは2024年5月下旬に収録)
このように表記されていたので、これはここから読まないわけにはいかないでしょうと。ちなみに、以前もお話しましたが、Quadrupleの独占インタは今年の3月11日、つまり「Notte Stellata 2024」の翌日、仙台市内のホテルで行われていました。したがって、それとも別の、完全独占インタということになります。
まず、今回の羽生さんの発言の注目ポイントとしては、「30代中盤~後半には体力が落ちるだろうから、今はこれぐらいのショーをやっていこうという『打算』『逆算』はできない」という部分ですね。これはもう、今回のインタの中で本人も語っているように、「佐賀前と佐賀後」でトレーニングを変えたことで、その後の横浜・宮城公演で納得のいくパフォーマンスを披露できたことも大きいのではないかと。2時間のワンマンショーを滑り切るためのトレーニング・コンディショニングの「最適解」を掴みつつあるわけで、もっと長くできるかもしれませんからね。
次に、「応援の受け取り方」に関する部分ですか。競技者ではなくプロのアーティストなんだから、お客さんには「応援」ではなく「楽しんでほしい」という気持ちもあったことを吐露していますね。べつにそれは「応援は必要ない」と言っているんじゃなくて、おそらく、「決められた演目をノーミスするのはプロとして当たり前」という自負と、そのためのトレーニングを積んできているんだから、お客さんには「応援にエネルギーのリソースを割くよりも、表現・ストーリーに注目してほしい」という思いがあったのかもしれません。ただ、「破滅への使者」のような難プロは会場のお客さんの応援あってこそでしょうし、「誰も頼れないワンマンショー」だからこそ、どんなに呼吸困難でもお客さんが待っている・・・だからこそ、お客さんの「応援」の力に背中を押された部分も少なからずあったように思われます。
ところで、今回の独占インタでは、山口真一さんはリモートでの取材、現地仙台には毛受亮介カメラマンのみ参加という形式だったようです。26頁では、「3月に(ダメもとで)取材を申請したところ、案外早く、羽生サイドからOKの返事をもらった」とのことでした。そりゃもう、ファンから絶大な信頼を集めているマガジンのことは当然羽生さんも承知しているはずですから、今回このような取材が実現して本当に喜ばしいです。誤解を恐れずに言えば、山口さんと毛受さんは「ファン代表」みたいなものですから、皆さまも「マガジンを応援してきてよかった!」と思われたのではないかと。少なくとも私はそう感じました。
しかし、あれですね。「体調が万全のときなんて、1ヶ月に3回ぐらいしかない」というくだりには、ニヤっとさせられると同時に、羽生さんが妙に身近な存在に感じられました。我々の場合、今日は寝不足でだるい、今日はお腹の調子が悪い、今日も腰と肩が痛い、でも、仕事は休めない。体調が悪いなんて言ってられないのは、我々社会人の日常と同じじゃないですか。
そう考えると、「職業・羽生結弦」というのは、唯一無二の天才スケーターに与えられた「名誉職」の類ではまったくない。体調が悪くても、苦しい鍛錬を来る日も来る日も続けていく。どこか人間国宝の職人のような、華やかさとは無縁の泥臭くて孤独な闘い。実像は、そこに近いのかもしれません。
では、また明日!
Jun