「Quadruple Axel 2021 シーズンクライマックス」(2)

「Quadruple Axel 2021 シーズンクライマックス」(2)

Quadruple」のレビューの続きです。今日は、「羽生結弦を語る」という共通企画から、読者様も絶賛されていた織田信成君のインタをご紹介します。

――ショートプログラムの『Let Me Entertain You』とフリーの『天と地と』は、それぞれどのようにご覧になりましたか?

・・・(ショートについて)演技するスケーターの視点で言うと、アップテンポの曲はすごく難しいんですよ。テンポが速いと、ジャンプの助走に時間を使うことができないので、どうしてもタイミングをとりづらくなります。そのため高い技術力が求められるのですが、羽生選手は助走レスでジャンプを跳ぶテクニックを持っているので、『Let Me Entertain You』は彼の滑りにマッチしたいい選曲だったのではないかなと思います。

・・・(フリーについて)『SEIMEI』は、「ジャンプ」「ステップ」「スローパート」「コレオシークエンス」と、はっきり見せ場があるプログラムだったと思うのですが、『天と地と』はどちらかというと、すべてがひとつの線でつながっているというか、“流れる川”のような印象を受けました。4回転のような大技を跳ぼうとすると、どうしても助走で構えてしまって、プログラムの流れが止まってしまうことが多いんですけど、羽生選手はジャンプの助走でさえも曲に合わせて跳ぶことができるんですよね。すべてのエレメンツを音の流れに乗せて実施できるテクニックがあるからこそ、止めどなく流れる水のような、美しい滑りができるのだと思います。すべてのエレメンツが曲に合っていて、肩の力が抜けて、音がしないというか、サラサラと水が流れるような感じ。僕はこの演技を見て、「これは、フィギュアスケートで、もっとも美しい演技なんじゃないか」「これこそが最高のスケートだ」と感じました。これまで、『SEIMEI』が世界でナンバーワンのプログラムだと思っていて、「これを超えるものはないんじゃないか」とさえ思っていたんですけど、全日本の演技を見たときに、「もしかしたら『SEIMEI』を超えるプログラムになるかもしれない」という期待感でいっぱいになりました。

いったんここで切ります。LMEYについては、織田君の言うように曲自体のピッチは速いんですけど、私はやはり意図的に緩急とタメが作られているように感じます。レックレは終始かっ飛ばしている感じがあって、それはそれで高い技術が求められていますが、今回は同じロックであっても「違うもの」を狙っていたんじゃないかと。レックレ以降、バラ1の再演とOtonalを挟んでいますし、ロックの中に起伏を作れるだけの表現力を羽生さんは身に着けたのだと、私は勝手に解釈しています。

「止めどなく流れる水のような」という、織田君の「天と地と」の評価も面白いですよね。「水」というと、私はホプレガを想起するんですが、ホプレガはピアノ曲だけで構成されている一方で、「天と地と」はより多くの楽器が使われていて、さまざまな自然現象をカバーしているようなに感じます。ただ、それを言うと、上杉謙信公のライバルの「風林火山の世界」になってしまうので、水で良い、ということにしておきましょう。

しかし、「SEIMEIを超える」というのは、めちゃくちゃ高い評価ですよね。実際「もっと良くなる!」という期待感も持ってくれているようです。

フィギュアスケートは自分もやっているスポーツなだけに、そこに至るまでの自分のなかのハードルが高いんですね。それが、『天と地と』を見たときは、純粋に魂が震えました。これまでも何度も羽生選手の素晴らしい演技を見て、「すごいな!」「素晴らしいな!」と思ってきました。そんなとき、同じスケーターとして、「ちょっと悔しいな」「負けたくないな」という気持ちが、こんな僕でも少しはあったんですよ!

でも、今回は、そういう気持ちがまったく湧きませんでした。ますます尊敬の念が深まりましたし、この演技をやり抜いた彼の心の奥底に、「コロナで大変な思いをしている人たちの心に少しでも届けば」という思いがあったと知って、人としての素晴らしさ、やさしさに、ただただ感動するばかりでした。

私にとっての全日本の「天と地と」は、初公開のプログラムで、しかも「初日公演」で、さらにノーミスという前代未聞の特殊な条件が重なって、「目の前で何が起こっているのかよくわからない・・・」という感じでしたね。もちろん、公式練習で調子の良さは分かっていましたけど、あの衣装を身にまとって、最終滑走で・・・勝ったことに感動はしましたが、プログラムの凄さというのは、何度も映像を見てから、徐々に分かってきた感じがします。そこはさすが織田君、「魂が震えた」とは言っても、プロの解説者として分析的に見ていたんだと思います。

全日本選手権でのコメントに、医療従事者やコロナ禍で大変な思いをされている方々に思いを寄せる言葉がありました。たくさんの人に勇気と希望を届けたいというやさしさが根底にあり、それが彼の原動力になっているのかなと思います。

いや、この部分をちゃんと拾っている織田君こそ、優しい心の持ち主だということは、このインタを読んだ誰もが心に感じていることでしょう。織田君の解説は、GPシリーズのみですから、来季はぜひライブでLEMYと天と地とを織田君に解説してもらいたいと思います。あっ、もちろん、稔先生も聞きたいですね!

では、また明日!

Jun


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