予言者・トレーシー。「フィギュアスケート日本代表2018ファンブック」(1)

予言者・トレーシー。「フィギュアスケート日本代表2018ファンブック」(1)

2018年9月29日発売。定価「1,944円+税」。

「Quadruple」の編集チームが、年1回発行していた「フィギュアスケート日本男子201Xメモリアル」の後継誌です。「Quadruple」が男子専門の雑誌であったのに対して、この雑誌は女子選手もカバーしている所に特徴があります。日本の男女シニア有力選手の「新シーズンへの意気込み」をすばやく確認したい方にはオススメの一冊です。

今回は、トロントメディアデーの部分のみご紹介します。内容的には、羽生君の共同・個別取材、ブライアン・トレーシー・ジェフのインタで構成。写真撮影は、FaOIオフィシャルフォトブックのカメラマンとして、能登さん&田中さんとともに名を連ねている、田口有史さん。トロントのショット以外に、H&Fでのホプレガ、FaOIでの「春よ、来い」の写真も4ページ(4ショット)収録されています。

トロントでの羽生君の「囲み会見」については、すでにスポーツ報知の高木恵記者が、マガジンの山口真一さんの意志を継承するように、素晴らしい内容の一問一答を公開してくださっているので<(1)(2)(3)(4)(5)(6)(7)(8)>、割愛します。

個別取材については、「ファンの応援の力」というテーマが中心。羽生君にとって、ファンの応援は「プレッシャー」であり、「期待に応えるべく一生懸命練習して、そこに縛ってもらえるから、追い詰められるから、強くなっていける」ものであると。しかし、同時に彼は、ファンに対して「与える」立場、「嬉しい気持ちになれるような」立場、「僕自身がそういう媒体になれたらいいな」とも発言しています。これまで、震災や復興、あるいは東北という地域に絡めて、色々と発言を求められることが多かったですが、ここでは、もっと広い意味でのファンとの関わりという部分を意識している印象ですね。

ブライアンのインタについて。よく我々ゆづファンは、羽生君の「3Aや4TにはGOE+5がついて当然だ!」という話をしますけど、ブライアンによれば、「たいていのジャンプはプラス4か5は取れ」て、スピンやステップも「プラス5は確実」である、と。したがって、こう考えているようです。

彼自身の世界記録を更新できるか予測するのは難しいですね。ジャンプひとつ減るわけなので、これだけで6ポイントか7ポイントは自動的に減ることになりますから。しかし、プラス5を加算していけば、更新することは可能でしょう。私は、新しいシステムはユヅルのようなスケーターにとって有利だと考えます。4回転ジャンプだけでなく、ほかのエレメンツの比重が高くなるわけですから。

「難しいですね」といいながら、しっかりソロバン勘定している所が彼らしいです。

トレーシーは、2点興味深い発言がありました。まずは、Originのステップについて。

このステップシークエンスは彼の真骨頂だと思います。ジャンプを跳んだ後に、あれだけのエネルギーを残している。彼にはエッジをうまく使って難しいターンをこなす能力があり、しかもそれを見事に音楽と調和させてやってのけます。それゆえに彼のステップシークエンスは予測がつかないものになるのです。芸術的にも、技術的にもね。彼はとてもエモーショナルで、常に何か新しいことをやろうとしています。同じことを繰り返すことはほとんどありません。アーティストとしての彼の創造力がそれを可能にさせているのです。ただ、それはジャンプではできないことなんです。ジャンプは、きっちり決まった方法で跳ぶことを必要としますから。一方、ステップシークエンスでは、いろいろ選ぶことができます。

まったく同感です。オータムでのOriginを見て、例年のプログラムよりも随所に新しい動きが配置されていてビックリしましたが、トレーシーがこの点を強調しているのは、なるほどやっぱりそうか、と。そう考えると、Originは、羽生君とシェイの共同作品でありつつ、ステップの部分ではトレーシーの専門的なアドバイスも相当入っているのかもしれません。そして、もう一つ・・・。

ここ数年、ユヅルは技術面でスコアを伸ばすことに挑んでいたと思います。・・・彼ほどの能力、才能を持っていて、そこまで技巧的な面をリスペクトするアスリートはそうはいません。これほど真剣に向き合っている人もね。だから、いまはのびのびやれるのでしょう。ただ、それがいつまで続くかはわかりません。ユヅルはユヅルですから。いまは「プレッシャーから解放された」と言っていますが、数ヶ月後には、また元のように戻っているかもしれませんよ。彼は常に上を目指す人です。とりあえず、いまは楽しみながら見守ることにしましょう。

この部分を読みながら、「クックック」と笑ってしまいました。トロントメディアデーから、数ヶ月どころか一ヶ月も経たないうちに、「今はもう勝ちたいしかないんで。最短で強くなりたい」ですからね(笑)。さすが、2012年夏から6年間毎日羽生君を見守ってきて、もはや彼の性格を熟知しているなと思いました。

最後にジェフについて。もちろんOtonalについて語った部分です。一気に読んでもらいましょう。上から順番に、プログラムのストーリー、ジャンプの配置、そしてジョニーとの関わりについて。

ユヅルと曲の話をしたのは、夏の初めごろでした。彼から曲のタイトルを聞かされたとき、まず私が知りたかったのは、この曲が彼にとってどのような意味があるかということでした。・・・タイトル(スペイン語のOtonal)を英訳するとAutumnですが、彼は「回顧のようなものだ」と話してくれました。そのテーマをこのプログラムのストーリーのベースにすることに決めました。彼の人生のなかで、これまでに起こった多くのことを振り返り、さまざまな思い出もテーマにして、そこから発展させていきました。・・・序盤は、彼がフォトアルバムを見返しているようなイメージで始まり、過去を振り返る瞬間を表現しています。これは彼のスケート人生を振り返る“旅(Journey)”でもあります。そして全体の根底にあるのは“夢(Dream)”。そしてまた“始まり(Beginning)”へと戻っていくような感じです。

ユヅルは、まず最初にジャンプをしっかり成功させることにフォーカスしたかったようです。それができれば後半に向けてよりリラックスして、プログラム自体を楽しんで演じられるようになりますから。ルールにどのように対応していくかは、スケーターによって異なると思いますが、私自身はオープンに、彼のアイデアを受け入れようという姿勢で協力しています。

ジョニーとは、このオフのファンタジーオンアイスで一緒に滑る機会があって、そのことを話したんです。そうしたら、彼もいろいろとアドバイスをくれて、それを私たちも参考にしました。「ジョニーが滑っていたから」とユヅルが選んだ音楽でしたからね。ジョニーはそのことをとても光栄に感じていて、このプログラムを振り付けるうえですごくサポートしてくれました。

羽生君がジョニーに曲の使用許可を取ったのは4月のCiONTUという話でしたが、具体的にジェフとともに動き始めたのは夏(6月?)以降のようですね。まぁ、ジェフも超多忙な売れっ子振付師ですし、羽生君もずっと日本でしたから、いきなり4月から取り掛かるというのは難しかったはずです。

Otonalに込められたストーリーの骨格についてはこのジェフの説明でかなり分かりましたが、やはり羽生君に直接語ってもらいたいですよね。ジュエルズの独占インタで話してくれることを期待しましょう。

そして、ジャンプの「前半固め打ち」についても出てきましたね。オータムのSP後、羽生君は、テレ朝のインタビューで「流れがキレイだからこのままでいいかなって思う」と返答していました。これを、ジェフの証言と噛み合わせると、やはりジャンプを前半に配置した何らかの意図はありそうで、つまり「後半部分をリラックスして楽しんで演じなければならない特別な理由」があるんじゃないかと。この部分についても、羽生君は説明する義務がありますね(笑)。

一方、Originの技術的な部分はブライアンとトレーシーも語っていたんですけど、やはりシェイのOriginに関する証言も必要です。彼女ほどフィギュアスケートにおける「感情の表現」を大切にする振付師はいないですから、ストーリーと振付の関係について、緻密に練り上げられているはず。この点に関して、どのメディアが最初に彼女に取材するか、要注目ですね。

では、また明日!

Jun

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コメント

  1. ごろ寝 より:

    今更、騒動(?)を教えてもらいました。
    ダークサイドはどこの世界もあります。メディアックスがフィギュア本を出版することはもうないですね。販売直前の中止など、ここまでやるか!が本音。
    何が平等?やり繰りしてやっと買った雑誌で推しだけを愛でることを邪魔するな。興味のない選手の写真などいらない・・・・・が正直なところですけれど。

    引退後の羽生さんの処遇が思いやられます。クリケット拠点で活動するか、スケ連等と関わらないでと、本気で思いますね。
    マイナースポーツ界という組織、最近の騒動で一端を垣間見た人が多いはず。日本のフィギュア界で羽生さんの居場所はあるのでしょうか。

    USMなどは、高橋さんと同様に宇野選手の公式バナーを販売しているのですね。2012年のあの威圧を記憶する方も多いでしょう。ファンも辛いが選手も心地よいとは思えない。
    一方、主催が販売するグッズはともかく、羽生サイドは公式グッズを販売しない。その理由は容易に察せられます。・・・その人柄も魅かれる要因ですので、怒りと不安も抱えながら応援するしかないのかな。

    2000円近いなら単行本を買います。こうしてJUNさんに記して貰えるのは実にありがたいこと。感謝して拝読いたしました。

    • Jun より:

      ごろ寝さま

      「フィギュアスケート道」に邁進したいのであれば、羽生君や島田君を目標にして、海外志向のプランを考えていくことが最善の道でしょうね。

      日本を拠点にして、それなりに活躍して、マネージメント事務所の所属選手になったとしても、くだらないバラティに出させられたり、しょーもないage記事で追い風を受けた上で、「おれのおかげだぞ、感謝しろ」というわけのわからない大人たちにペコペコすることになる。

      そんなことをやっていては伝説的な選手にはなれません。「羽生君に憧れる若手選手たち」は、その辺りをシビアかつドライに眺めていることを願います。

  2. ととちゃん より:

    実はkindleで一部無料とあったので、ダウンロードして読みました。良ければ買おうかと思っていたのですが、びっくりしたのは羽生選手部分が全て網羅されていたこと。完全に
    満足して、購買意欲を無くしました。これって販売戦略的にどうなのか?と他人事ながら心配です(苦笑)。

    でもシェイリーンの記事はないんですよね?
    動画でのインタは見たものの、羽生選手自身の両プロの解釈と共に、シェイの説明を紙媒体で読みたいなぁと思います。ジュエルズ待ちでしょうね。

    ともあれ、クリケットは羽生選手をよく知り
    彼を愛し、変わらずサポートしてくれているのが改めてよく分かって、いい特集でした。

    • Jun より:

      ととちゃん さま

      kindleの件は知らなかったですが、それはずいぶんと良心的(?)ですね!

      シェイについては、オータム前後に海外の取材に応えているものをテキストではチラっと見かけた記憶がありますが、やはりしっかりとしたものを読みたいですよね。

      シェイのインタがジュエルズだったらいいのですが、WFS含めた新書館の出版物には正直一銭たりとも使いたくなくて(JOのたまアリの新書館のブースでは宇野選手のバナータオルを売るそうですね)、どことどこがつながっているのか、なんとなく分かってきた感じはします。

  3. sennin より:

    結弦君の部分を丁寧に紹介していただいてありがとうございます。Otonalのこと本当に結弦君の言葉で聞いてみたいですね。前半ジャンプひょっとすると変わるかもしれないけど(笑)
    Junさんのクックックッ全く同感でした。
    こちらの雑誌は、草太くん、島田君、駿、三浦、中村君のコーナーもあると言うので読んでみたいと書店に行くものの、何にもないですね。オリンピック以降スケート雑誌が売れてる感じがします。今日は、出掛けた先で2軒の書店のうち一軒がこちらの雑誌だけありました。高いだけあって厚みが凄いですね。結構大ちゃんの写真が多いなあと感じまして購買する気はおきませんでしたけど、若い結弦君を追いかけてる五人の選手のページを読んできました。もしかしたら今日は(1)になっていましたので(2)があるのでしょうか?楽しみに待つとします。
    島田君や川畑さんの試合でまた寝不足になっちゃいますね?。レベル高いなあと…。もうご存知だと思いますが、Jr.の関東ブロックの男子、駿君素晴らしい成績でしたね。夏の試合みて3Aを失敗する感じがしなかったんですよね。フリーで4Sだと思いますけど成功したみたいで動画があがらないのが残念です。男子ジュニア競争が激しくて面白いですね。

    ご心配おかけしましたがニュースお陰さまでゲットできました。文句無しの素晴らしい出来でした。海外の選手のチョイスもよかった。これからは結弦君のあのシルエットは見れないのですね?残念を通り越して悲しいですが諦めるしかないとおもってます。メディアックスさんには感謝の言葉しか見つかりません。メディアックスさんもオリンピックシリーズ出したかっただろうなあとニュースをみていてそう思いました。

    • Jun より:

      senninさま

      試合と試合の合間を縫って、本誌レビューの「続き」を考えてはいますが、とりあえずは、試合のレビュー優先でいきたいと思っています。

      駿君は、JGPの7戦目へのアサインの可能性が厳しくなりましたが、調子自体は良さそうですし、全日本ジュニアでぜひ素晴らしいパフォーマンスを披露してもらえたらなと思います。来季のJGPには、駿君、鍵山君、三浦君が2戦ずつ出られるようになると、ロシアといい勝負ができるんじゃないかと期待しています。

      「ニュース」ゲット、おめでとうございます。そして、内容にもご満足いただけて何よりでした。

  4. マリィ より:

    こんにちは
    今日も闇の勢力に大激怒しております。
    応援ブックも発売中止になりましたね。
    楽天で保険かけてて良かったです。
    発送しました、がつきましたので届きますよね?
    日本のスポーツ界はどこも腐ってますね。
    出版界、マスコミもですが。
    羽生くんの拠点がクリケットで良かったですよね。
    でなければレスリング等よろしく騒がしい事になってたかもしれませんね。
    引退したら日本を拠点にする事はない気がしますね。

    トレーシーの言葉、私も同感です(笑)
    ジェフのotonalのストーリーについての話は興味深いですね。
    次の試合ではそれをふまえて見る楽しみがありますね。
    横にスーッと滑って行くのが印象的ですが、それは何を意味してるのか?とか。

    羽生くんにとってクリケットはリラックスして楽しんでスケートが出来る良い環境ですね。
    日本にそんな所がないのは悲しい限りですが。
    プログラムのブラッシュアップを今は楽しみにしたいと思います。

    • Jun より:

      マリィさま

      さすがに「発送しました」のメールで通知済であれば大丈夫だとは思いますが、ネットオークションでもかなり見かけるので、価格の推移を見てそちらを利用するのも良いかもしません。

      まぁ、今年はスポーツ界のいろんな問題がありましたね。レスリング、アメフト、相撲、体操、ボクシングと、このままさらに各競技・種目をグルっと一周するんじゃないかと。

      正直、ソチ五輪の際の「タコチュー」的なスキャンダルが2018年のいま発生していたら、連日ワイドショーやSNSでフルボッコの上、現政権と政権与党叩きにまで発展して、地獄絵図になっていたことでしょう。わずか4年前の話ですが、あの頃はまだまだのんびりしていたなと思います。

      とはいえ、ブラックジャーナリストは暗躍しているはずで、これを「闇の勢力」はもみ消すことができるのか?「悪対悪」の水面下での抗争を、我々も冷ややかに眺めることにしましょうか。

      私の想像ですけど、ゆづファン的にはあまり人気のない城田さんが、実はメディア対応を羽生君および関係者にレクヂャーしているのかなと。海外を拠点にして物理的には距離を置きつつも、メディアデーには日経や日刊やNHKも呼んで「敵は近くに置いておけ」を実践しているように見えます。この辺り、とても興味深く、私は見ていますよ。

  5. みつばち より:

    更新ありがとうございます。

    連日ひじょうに興味ぶかいです。
    「ニュース」は某大手書籍チェーン店(く○ざわ書店)で、おととい買いました。
    そのときは五冊あったのに今日行ったら一冊もないんです。
    転売ヤーが買い占めたんでしょうか。そうだとしたら不愉快なんですけど。

    「日本代表ファンブック」は考え中です。
    復帰した選手のアンチではないんですが、なんとなく行き当たりばったりなところに違和感があります。もしかして再び日本代表に、ということで表紙の名前も大きいのかな。
     
    若手、舐められてるよ!頑張りなさい!
    別な意味で目が離せない展開ではありますね。もしそれを狙ってたとしたらスケ連すごいわ。

    • Jun より:

      みつばちさま

      「若手、頑張りなさい!」というのは、まさにその通り。ただ、羽生君はむろんのこと、島田君のようにランビ先生の薫陶を受けて、スケーターとしても人間としても驚異的な成長を見せている選手が出てきて、一方で、スケ連上層部のアレコレとか、日本国内のくだらない大人たちにうんざりしている若者はいるはず。

      野球やサッカーをはじめた子どもたちが、MLBやリーガを目指すように、日本の若いスケーターも、そう考えることが普通になっていくかもしれませんね。