羽生さんの論文を読んでみた!

羽生さんの論文を読んでみた!

こちら」のサイトから、PDFで取得することができます。

本稿は「フィギュアスケートにおけるモーションキャプチャ技術の活用と将来展望(羽生結弦 2020年度早稲田大学人間科学部卒業研究論文)」の一部に加筆・修正を行ったものである。

このように記載があるので、卒論の全文ではありません。ただ、「羽生さんが、具体的にどんな実験を行って、何がどこまでできて、何が難しかったか?」を、ある程度把握することができました。ちなみに、私自身は大学入試は英・国・世界史だけで受験した「超」がつくド文系人間ですけど、楽しく読むことができました。

(1)はじめに

ここでは、論文執筆にあたって「なぜこの実験を行ったのか?という羽生さんの問題意識」が明らかにされています。これはすでに私たちも把握していることが多く、現行のルールには「プラス・マイナスの項目が多すぎる」「毎年ルールに変更が加えられる」「にも関わらず、ワールドのような試合だと30人以上の演技を同じジャッジが判定しなきゃならず、負担が大きい」。それで正確なジャッジができるのか?と、この辺りが問題提起されています。

現状では,ジャンプの高難度化が進んでいるからこそ,評価基準がなおざりになっていることを感じる。特にジャンプの離氷時の評価は非常に曖昧で,審判員の裁量に完全に委ねられているように感じる。実際に,インタビュー等で審判員の判断に苦言を呈している選手もいる。

もちろん、その選手が誰かなんて書かれていませんが、「感じる」と私見であることを但し書きしつつも、「評価基準がなおざり」とか「審判員の裁量に完全に委ねられている」とか、けっこう表現がキツイ印象を受けました。

(2)実験方法

具体的にどのように実験を行ったか、そして実験をするにあたり、どのような不安材料があったかが列挙されています。31個の小型センサーを身体に装着し、そのセンサーをPCとWi-fiで接続して、映像を解析します。遠心力によってセンサーが外れないように身体に固定し、防水対策も行ったとのこと。

(3)実験結果

まず、30m×60mのリンクでの動きであっても、無線が切れることなくデータを取れたとのこと。

エッジの向きや角度,ターンなどへのセンサーの追跡能力の高さと信頼度が極めて高いものとなった。このようなデータを多く取得していく事によって信頼性の高い機械学習用データセットは用意できると考えられる。AXIS NEURONで出力したモデルでは,接地している足の関節が赤く表示されるようになっているが,これもうまく機能した。

この「接地している足の関節が赤く表示される」という機能が、この実験の核になっています。論文で言うと4~5頁に画像が掲載されています。この解析では、各種ジャンプの踏み切りの際に、「圧力がかかっているポイント」も赤く表示されるとのこと。これに続いて、ループ、フリップ、ルッツの「離氷時」のデータ、トウジャンプでトウを突く際のデータも分析。フリップ・ルッツにおける「イン・アウト」の跳び分け、ループにおいて右足だけで踏み切っているか、トウジャンプをブレード全体ではなくトウで踏み切っているか、この辺りのデータはかなり正確に取れることが分かったようです。

他方で、「回転数の判定」は課題が残るようです。

ただし,着地時のデータについては疑問が残るものも多い。膝の角度や着地時の回転角度の精度は疑わしい。したがって,現状では,回転数の判断の自動化は厳しい。しかし,これについては複数台カメラを用意し,任意の見易い角度からの映像をスロー再生で着地点をしっかりと判断することは可能であるため,この技術に頼りきりになる必要性はない。

ここからは私の推測ですが、例えば「シューズへのセンサーの装着」などを義務化すると、ジャンプの踏み切りに関しては、人力(人間の目視)に頼らずとも1台のカメラだけでかなり正確に判定できそうです。ただ、回転不足については、現状ではカメラの台数を増やして、映像をスロー再生して人間の目で判定することになるでしょうか。

「予算が無いのでカメラは増やせませしぇーん!」というISUの言い訳は、少なくともジャンプの踏み切りの判定に関しては、まったく説得力が無いですね。

「こんなことをやってもISUが採用しなきゃ意味ない」という意見は自称スケート通の人間から多く上がりそうですが、日々の練習現場で(リモート指導でも)「正しいジャンプを習得する」という目的でなら、この技術をすぐにでも活用できそうです。

では、また明日!

Jun


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コメント

  1. みつばち より:

    こんにちは 更新ありがとうございます

    論文の解析ありがとうございます。
    モーションキャプチャーについては、「ロード・オブ・ザ・リング」や「ハリー・ポッター」等、映画の特撮に使われてるイメージです。

    フェンシングは突きがはいったかどうかランプで判定できるみたいですね。
    テニスもアウトかオンラインか確認できるし、相撲もビデオ判定があります。

    テレビ中継する競技はすべてAIで判定できるようにするべきなのに・・・・
    なにかまずいことがあるんでしょうねーーーこれだけ検証動画が上がってる時代になんのことやら、です。

    これからどうなるんだろうという気がしますが、真摯に取り組む人に光あれ、です。

    • Jun より:

      みつばちさま

      私も、モーションキャプチャーのイメージを補完するために、ゲームのキャラクターの制作現場の画像などを見ていました。

      ただ、この論文を読んだ限り、羽生さんの実験はおそらく「カメラ一台」で実施したという点が重要です。決して、大企業のバックアップ等によりリンクに何台もカメラを設置した大掛かりな実験ではなさそうです。

      また、「AIで何もかも解決」という楽観的な結論ではなく、現状では「モーションキャプチャーによる回転不足の判定は難しい」という課題も明らかにしていて、バランスが取れています。だから、指導教授の先生も論文の題材として許可したのかなと思われます。

  2. Sennin より:

    論文私も少しは読みましたけど、まあそこまでです。結弦君がが引退したらそこまで私は拘らないし、そもそもテレビをつけたら観る程度のフィギュアスケートの試合になると思うので、まあね、これは大学の卒業論文って事だけど引退したら一つひとつ後輩の為に改善につい力出来る人になってほしいと思います。羽生結弦でしか出来ないことが沢山あるんだろうな〜。

    昨日の将棋日を越すとは‼️三浦先生が優勢だったのに藤井聡太二冠が勝ちましたね。
    Jun さんが仰るように時々観てました。今日はヤバイなと思ってたらえ?ってなって
    師匠がニッコニコだったらしいですがそこは見逃して残念だった。日を跨ぐ熱戦になると
    若い人に有利って事はないのでしょうかね?

    • Jun より:

      Senninさま

      ABEMAの評価値はけっこう大げさに出るので、師匠は「僕が解説に交代で出てくるたびに、評価値が(三浦有利に差が)開いていく・・・」とションボリ気味だったのが、互角になったら元気になってましたね。

      藤井将棋はコレがあるんで、本人が「負けました」と頭を下げるまで、ファンも諦めちゃいけないんですよ。