原孟俊さんと言うと、FaOIのオープニング&フィナーレの衣装デザイナーを毎年任されていて、6月下旬に発売された「キスクラ」のインタでは、Aツアーにおける「U.S.A.」の音楽的背景を大いに語ってくださったり、また、羽生さん限定で「フードを取った」裏話も非常に興味深かったです。
このインタは、原さんの衣装デザイナーとしての歩みをまとめた内容になっていて、かなりのボリュームになっています。今回は、「notte stellata」における、羽生・内村コラボの「Conquest of Paradise」の衣装製作の部分をピックアップしておきます。
まず、何といってもこのタブレットに表示されている「ムードボード」ですよね。私のイメージする衣装デザインの工程って、それこそ伊藤聡美さんのように手書きのデザイン画があって、それを元に手作業で製作するというものでした。一方、原さんの場合、一人で衣装を全て手作りで製作するんじゃなくて、デザイナーという側面が強くて、「任せられる部分は人に任せる」とありました。
原さんのスタイルは、「U.S.A.」の時もそうでしたけど、使用楽曲の文化的・時代的背景を事前に調べ上げるという部分に特徴があって、あのFaOIの衣装の場合も、このような「概念図」的なものを作り上げていたのかもしれません。「自分だけが理解するためのもの」というよりは、「チーム内でそのデザインの意味を共有し、なおかつスケーター含むチーム外の人たちにもその考えを理解してもらうもの」という趣きで、几帳面な人だなぁ・・・と感心しました。
「最初は音楽から始まります。ですから上には、まずヴァンゲリスというアーティストの説明を書いています。ヴァンゲリスはギリシャのアテネ出身で、過去にオリンピックのテーマ曲を書いたり、『炎のランナー』というアスリート色の強い映画の音楽もやっていたこともあります。基本的にオリンピズムみたいなものとの関連性がすごく強いという要素を説明してます。では曲自体はどうなっているのか。この曲は映画のサウンドトラックですが、ヨーロッパの舞踏の『フォリア』という様式とアレンジをベースにした曲になっています」
「・・・生地感としてギリシャやオリンポス時代の衣装様式にしたいということ、マテリアルの提案もして、絵は最後なんですね。今回は羽生さんに3タイプ、内村さんに2タイプデザインをご用意して、その中から決まりました」
ふと思ったのは、使用楽曲についての知識や、もともと音楽全般に対して見識のあるスケーターから衣装を依頼された場合なら、このような背景説明をスッと理解してもらえるのでしょうが、プログラムを振付師にすべて丸投げするスタイルのスケーターだったら、どうするんでしょうね?「この曲にはこーこーこういう事情と背景があるので、こんなデザインになりました」とデザイン画を見せても、ポカーンじゃないかと。ただ、洋服全般に言えますが、デザイナーが拘った部分を購買者が理解して買っているわけじゃないし、最後は「本人」の意向を重視するのでしょうね。そのために、複数タイプのデザインを用意しているわけですし。
今後、羽生さんがまたワンマンショーを行う場合、1公演の中で何度も「お着換え」があるはず。伊藤さんや原さん、あるいはまた別のデザイナーさんの衣装を身にまとった「新たな羽生さん」を見られるといいですね。
では、また明日!
Jun