今回の「AERA」には、将棋の渡辺明名人のインタビューも掲載されていて、藤井聡太二冠についてどう見ているのか、なかなか興味深い内容だったのでご紹介します。
(1)これまで年下で渡辺名人からタイトルを奪うことができたのは、藤井二冠だけ。
「藤井君がこんなに注目される中、対戦相手も強くないと盛り上がらない。藤井君の壁になれるかはわからないけど、そこは自分が期待されている役割でしょうし、その一番手という意識はあります。藤井君が全部大楽勝だと、面白くもなんともない。世の中の人がいま求めているのは、藤井君が強い相手にスレスレで逆転勝ちしたりするところでしょう。次のタイトル戦で当たったらどうなるか。そこで距離感を測りたい。いまの自分のやり方でぶつかって、ダメなら老兵は去っていく。しかしそんなに簡単にやられるとも思ってません」
(2)藤井二冠は20年度の最優秀棋士に選ばれた。
「21年度の将棋界も、藤井君を中心に回っていくのは間違いないでしょう。彼が防衛戦をやりながら、羽生さんが七冠に上がったときみたいに、ばしばしタイトル数を増やしていくのか。逆に、1年経って彼が同じ二冠だったら『あれ?』って雰囲気になると思います。僕クラスの棋士だと1年後に二冠、三冠を維持していたらもう大成功なんですよ。だけど藤井君に求められてるのはそこじゃない。藤井君が出てくる前は、自分のコンディションがある程度維持できて、最先端の将棋についていければ、タイトルはゼロにならないと思っていた。いまは藤井君にどう勝つのか、そこを解決しないことには、僕も無冠になるでしょう」
(3)過去、どれほどの大棋士でも、40代になれば次第にタイトルから遠ざかってきた。
「40代で自分の力が衰え、若い人が出てくれば、相対的に順位が下がっていくとは考えます。でも今は自分の力やコンディションより、藤井聡太君がいるんで。彼がどれぐらい強くなるかで、自分のタイトル数も左右される。関心があるのはそっちです」
少し補足しますと、将棋界では「中学生でプロ棋士になった天才」は、過去に5人しかいません。加藤一二三さん、谷川浩司さん、羽生善治さん、渡辺明さん、そして藤井聡太さん。藤井君以外は全員名人になっています。
渡辺さんは、この年明け以降、棋王を3勝1敗で防衛、王将も4勝2敗で防衛し、いま名人戦を戦っています。タイトル通算獲得数は28期で、歴代4位。特にタイトル戦が強く、これまで年下の挑戦者は全て退けてきました。しかし、昨年、棋聖位を1勝3敗で藤井君に奪取されます。そして、2月の朝日杯の準決勝の藤井戦では、最終盤までAIの評価で「99%対1%」でリードしていたものの、これをひっくり返されて、逆転負け。この最新インタビューの中で、これだけ意識しているのも納得なんですよね。
ちなみに、渡辺さんは19歳で結婚して、20歳の時に長男が誕生しています。渡辺さんはいま36歳なので、藤井二冠は息子さんとほぼ同世代なんですよ。だからこのインタビューでは、フランクに「藤井君」と呼んでるんでしょうね。
将棋の対局というのは、内容的に大差の時もあれば、お互いがミスを連発しての僅差もある。ミスをしたかどうかは、いまはリアルタイムでAIですぐに分かるので、プロ棋士にとってはツライ時代になりました。ただ、渡辺・藤井戦というのは、お互いがほぼノーミスで進行して、接戦になるハイレベルな勝負ばかり。特に昨年の棋聖戦は超レベルの高いシリーズでした。
藤井棋聖の初防衛戦は、6月上旬から始まる予定です。挑戦者争いは「4名」まで絞られていて、渡辺さんも残っています。藤井君は金曜日の叡王戦で広瀬八段に圧勝して、気がついたら18連勝中。ぜひ渡辺さんに上がってきてもらって、さらにハイレベルな戦いを見せてもらいたいと願っています。
では、また明日!
Jun