女子フリーも、後半の2つのグループを中心に見ていたんですが、スコア的には11位まで200点以上とハイレベルで、最終グループの選手はプレッシャーだったろうなと思っていました。
坂本さんに関しては、この4年間の経験から、「余計なものを徹底的にそぎ落とした」ことで、今回の銅メダルに結実したと思います。4年前の平昌五輪は、ある意味でブノワ・リショーさんとの「コンビ」で代表を勝ち取ったと言えますが、翌シーズン以降、表現面の幅を広げるべく、デイヴィッド・ウィルソンやシェイリーンの振付にもチャレンジしていきます。特にデイヴィッドからは「手がメープルになってる」(日本代表ファンブック2018)と怒られたりしながら、苦労してきました。しかし、この2シーズンはSP・フリーともにリショーさんにお任せで、やはり彼女自身も彼のプロの方が「力を出せる」と思ったのでしょう。
それは3Aやクワドにも言えて、ロシアの若い子が4回転をバンバン跳ぶので、当然彼女も3Aやクワドに練習段階ではチャレンジしていたと思います。しかし、中野先生のインタを読むと「まず3回転で全部、今回の五輪はやりたいというのが本人の希望だった」とのこと。そう考えると、坂本さんって、こう言っちゃ失礼かもしれませんが、意外にも、「職人気質」というか「完璧主義」というか、堅実な性格なんだなと感じました。できもしないことを見切り発車で中途半端にやろうとするよりも、自分ができることを自信を持ってやろう、という考え方。これを貫いたことが、高い評価に繋がったんだと思います。
他方で、樋口さんは抜群の音楽センスの持ち主で、ポップな曲からしっとりした曲、そして元気な曲まで幅広く滑りこなすことができるし、3Aもモノにしました。坂本さんとはまったく対照的なスケーターと言えますが、今回、同部屋で長期間一緒に過ごして、団体と個人を一緒に戦って、友情を深めたという話です。細かいミスはありましたが、五輪の大舞台でSP・フリー合わせて2本の3Aを見事クリーンに決めました。女子の中では、3Aの第一人者と言ってもいいと思います。
河辺さんは、そもそも五輪代表に選ばれた時点で「代表に見合った実力を持っていない」という主旨の発言をしていて、心配ではありました。その自信の無さを、そのまま五輪まで引きずってしまったような気がします。技術的には素晴らしい選手で、3Aだけでなく所作もキレイなので、本来の実力を出せずに残念でした。しかし、この経験を糧にして、4年後を目指してもらいたいですね。
ロシア勢については、SPを見た感じで一番コンデションが良さそうだったシェルバコワが優勝し、ミス覚悟で5本のクワド「だけ」を詰め込んだトゥルソワは、案の定PCSは伸びず、しっかり減点されて銀メダルに。ワリエワのミス連発は、陣営としてはおそらく想定外で、「多少の雑音はあっても、勝てる」という見立てだったのでしょう。想定外だから、エテリコーチも怒ってたんでしょうね。
大会前の下馬評では、それこそネイサン以上に「金メダルの大本命」と言われていたのがワリエワでした。リンクの内外で、「若き大天才」として、世界中の人々からの羨望と憧れと称賛の眼差しを、自身で感じていたはずです。ところが、あの報道をきっかけに、北京では真逆の視線を感じることになった。15歳の女子にとっては、生き地獄ですよ。
周りの大人が「常識的な感覚」を持っていれば、本人の意思をしっかり確認して、「今回は欠場して、4年後を目指して一緒に頑張ろう!」と「逃げ道」を用意すべきなんです。しかし、偉い人たちの圧力なのか、「選手は使い捨て」という感覚のコーチが「功を焦った」からなのかどうか知りませんが、おそらくまともなコミュニケーションを取らず、あんなことになってしまった。「取れるものは取っておけ」と大人たちは思っていても、実際にリンクに立つのは、彼女なんです。演技を見ていて、とにかく気の毒でしたね。
ドーピングの問題はしっかり追及してもらいたいですが、ワリエワさんがスケートを続けるかやめるのかは分かりませんけど、今回のことから、いつか立ち直ってもらいたいですね。
では、また明日!
Jun