「フィギュアスケートマガジン 2021-2022 Vol.5」(1)

「フィギュアスケートマガジン 2021-2022 Vol.5」(1)

2022年3月11日発売。定価「1,390円」。さて、レビューの前に、一つだけ雑談を。

HDD編集のご経験のある皆さまはお馴染みかと思いますが、見たくない・残したくないものを極限まで削除すべく親指を小刻みに動かして、目は当然ながら羽生さんの動きしか見ていないので、正直まったく気づかなかったです。まー、人ってなかなか変わらないということでしょうね。

さて、マガジンの方ですが、例のごとく、座談会から読んでみました。今回は報知の高木記者のご発言の中に、胸に迫るものが多かったです。

サルコーのあの瞬間、時間が止まった感じがしました。声も出なかったというか、静まり返ったというか。現実を受け入れるまで少し時間がかかりましたが、次の4回転―3回転のトーループをしっかり決めたところで我に返りました。「まだ羽生選手は戦っているんだ。ちゃんと見なきゃ」って。演技を終えて、どんな表情でミックスゾーンに来るんだろうと思っていましたが、羽生選手は明るい表情で来てくれて、それを見て逆につらくなってしまいました。

もはや、父母が我が子を見守る心境ですよね。あの4Sのミスを、他人事として静観・客観視できない。だから、一瞬、現実を受け入れられなかったんだろうと思います。でも彼女は、テレビで見ていただけの私たちとは違って、本人の元に取材に行かなきゃいけません。仕事と分かっていても、辛かったことでしょう。悲痛な気持ちが伝わってきます。

・・・転倒して数分後のことですが、くるっと1回転した時に、足首がよれて体重を支えきれなかったんです。それを見てかなりの重症なんだと思いましたが、あの時点で練習時間は15分残っていたんですよ。正直「もう跳ぶのはやめて」と思いながら見ていました。

前号の「レビュー」でもご紹介しましたが、山口さんも、フリー前日練習の4Aでの怪我にショックを受けていた様子で、フリー当日朝の心境を、「この日が来るのが怖かった。ワクワクする気持ち、信じる気持ちはもちろんあるけど、一方で、それらを受け止める覚悟が決まらない」と、こう綴られていましたよね。

どうしてこのような試練を彼に与えるのか?神も仏も無いじゃないか?と、こうやってテキストを打ちながら、私も感じます。でも、羽生さんはやり切った。メダルには届かなかったけど、都築先生もおっしゃっていたように、「報われたじゃないか!」と。

そして、羽生さんの人生は現役引退後の方がはるかに長いはずで、今回の経験は、彼を人間的にさらに成長させたと思うし、それは将来の彼の「教え子」たちにも確実に継承されることでしょう。

フリーのプログラムは上杉謙信をモチーフにしていて、しかし謙信は天下を取った人ではありません。この北京五輪を見て、なぜ上杉謙信をテーマに選んだのかわかった気がしました。羽生選手の中にある「上杉謙信的な生き方」を、彼は北京で、自分の姿を通して表現したのではなかったかなと。(84頁、山口)

4Aに挑戦していく過程において、ケガは絶対につきまといますし、五輪に向けて追い込めばケガの可能性も高くなる。それは当然、考えていたと思うんです。ケガを抱えて五輪に出場することも想定していたはずです。『天と地と』は、天下を取ることを表現するのではなく、自分の道を追求して、己の美学に則って戦うことを表現したプログラムだと思います。プログラムの選択を見ても、自分を客観的に見て、北京五輪がどうなるかを予測していたのかなあと、そんな気がしました。(87頁、小海途)

お二人の「天と地と」に対する見解、とても興味深く感じました。もちろん、羽生さん自身にって、今回の怪我は「不慮の事故」でしょうし、ノーミスして勝つために北京に来たはずです。でも、彼は、ジャンプの前後のステップにしろ、ジャンプのクオリティにしろ、そして4Aにしろ、特にこの4年間は自分自身の美学を貫き通して闘ってきたと思いますね。だからこそ、上杉謙信公の人生に共感するものがあったのだろうと、私も想像しています。

今日は、いったんここで切ります。明日も、引き続きマガジンのレビューをお送りする予定です。

さて、日課のメタルジョギング・チャレンジは15日目。今回は、The Stoogesの『Fun House』(1970年7月)。ヘヴィメタルでもなく、ハードロックでもなく、音楽性・ビジュアル含めた「妖しいロック」の元祖と言っていいと思います。2曲目の「Loose」の映像を引っ張ってみましたが、画質が悪いのが大いに幸いしていて、イギー・ポップ(Vo)の動きが、「この人、明らかにシラフじゃないでしょ?」という、ヤバさに満ちています。ミック・ジャガーをもっと過激にしたようなパフォーマンスですね。曲だけ聴いていると、ほどよくうるさくて、ほどよくポップ。イギーの歌もガナっているだけのようで、どこか味がある。きっと、音楽性だけでなく、彼のキャラも、世界中の音楽シーンに影響を与えたんだろうなぁと感じます。

では、また明日!

Jun


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コメント

  1. おの より:

    昨夜書いたのですが、何故かダメでした
    マガジンは私が行く本屋さんでは売り切れてました
    次々と沢山出ますね
    羽生さんだけにして編集していたし、見れない番組もあって、昨日騒がれていたものは見てなかったけど、もう少し後輩達も配慮して欲しかったなぁと…
    あこそがどういう場所なのか分かっていたのでしょうか?
    羽生さんは立ち去る方に優しかったですよね
    国を背負ってって言う気持ちは無いんでしょう
    体操界が羨ましいです
    羽生さんがいつか引退する時、あんな風にリスペクトされて送り出してくれるかしら?って思います
    エキシでどんな気持ちで羽生さんといたのかしら?
    羽生さんだけのショーが見たいと思いました。

    • Jun より:

      おのさま

      結局、他人は他人ですよ。期待しても生産的ではない、と個人的には思います。

      ショーは、とりあえずはFaOIということになるでしょうか。羽生さんINがあるとしたら、GW前後まで引っ張るでしょうね・・・。