全部読みました。「SPUR」の連載は2019年3月号(執筆は1月)で最終回ということで、その最終回の内容も、年末の全日本選手権前までとなっています。最後の数ヶ月は高橋選手一色という感じで、そりゃ、ゆづファンの間で「SPUR」の宇都宮さんのエッセイが話題にならないわけだなと。今回、単行本という形でまとめて読んでみると、月ごとに、羽生、宇野、高橋の3選手が順番に出てくる感じなんですよね。これはこれで、ゆづファン視点で言うと、読んでいてテンションがガクっと下がる要因になっています。
例えば、「今も忘れません」(137~141頁、2017年12月)は、都築先生への良質なインタビューで、他誌と比べて都築先生もフレンドリーに話してくれています。4Aの話も出てきて、いい内容なんですよね。
ところが、その直後の「『世紀のジャンプ』への挑戦」(142~147頁、2018年1月)の冒頭で、「ダブルアクセル―4回転トーループ」という書き出しから始まります。宇野選手のアレです。「はぁ?」というか、ズコッという感じ。雑誌でのエッセイなら1ヶ月のインターバルが空くわけですが、 単行本だとそれこそ「シームレス」に読まされるわけで、同列に扱わないでくれよ!と。
そもそも2016年4月に連載が開始された際、編集者から「男子だけを書いてください」とリクエストされたようです。「男子」という縛りがあるとしても、特に今シーズンは、せめて島田君や友野君ぐらいは扱ってほしいかなと思うんですが、そーいうミーハーな編集者だと、「そんなマイナーな選手は誰も知らないから、羽生、宇野、高橋でまわしてください」と要望があったのかもしれません。宇都宮さんは、近畿選手権のためにわざわざ尼崎まで取材に行ってるので、取材費も出ているのでしょう。
しかし、The Sheltering Skyの話が出てくるのに、OtonalやOriginの記述がゼロというのは、どういうこと?と、ここは本当にガッカリです。ただ、宇都宮さんは2019年中に単行本を2冊刊行予定で、そのための取材・執筆に入るとのこと。さらに、新たに一般誌での連載も始まるとか。ぜひそちらで思う存分、筆をふるってほしいものです。
さて、個人的に興味深かったのは、18-19シーズンから導入された「ルール変更」についての、吉岡伸彦さんとの問答です。ヘルシンキGPで彼は羽生君に渋い点数をつけて(あのOtonalのSSに9.00とか!)、私はこの人をイマイチ信用できないんですが、その対話自体はなかなか面白い内容になっています。
宇都宮さんの指摘は鋭くて、ざっくりまとめると、「演技の質を高めるという目的と、ジャンプを1つ減らしたり、30秒短縮するというルール変更は矛盾するんじゃないか?」というものです。これに対して、ジャンプと時間短縮については「矛盾するかもしれません」と認めつつ、「GOEをプラス・マイナス5まで設けたことで、間違いなく質を高める方向に働きます」と吉岡さんは答えています。
もう一点。宇都宮さんから、「昨シーズン、プラス3評価を受けていた美しいジャンプは、そのままプラス5の評価を得られるのか?」という問いに、彼は、「全部が全部、そうはならない」と答えています。さらに彼は、「4回転ジャンプの基礎点も縮まっている。トーループからルッツまで、2点の幅になった。ジャンプの種類を増やしたい一方で、ジャンプ大会にはしたくないということで、ベースバリューを抑えた」とも答えています。
これは実はちょっとおかしな回答なんですよね。例えば、フィギュアスケート速報さんの「こちら」の【決定3】と【決定4】という部分を踏まえて、「速報」の管理人さんは、以下のように指摘しているんですね。
この表(※【決定4】の「新」「旧」と記載された表)を見て、あれ?と思いませんか?クワドジャンプの基礎点は下がっているのに、GOE(出来栄え点)で満点を取れば、新スコアが旧スコアを上回るのです!逆に出来栄えが悪かった場合は、得点がえげつなく下がります・・・w
そして、現実にどういう採点がなされたかは、さいたまワールドの通りです。クワド以外は魅力に乏しいネイサンとヴィンセントが躍進しました。これをジャンプ大会と言わずして、何と言うのでしょうか?
皆さんご承知の通り、さいたまに限らず、今シーズン通して、テクニカルの仕事はブレブレで、「コケ・抜けさえなければ回転不足やエッジエラーについては大甘判定」の試合もあり、見た目クリーンなジャンプには、旧ルール以上にGOEがついて、PCSも盛られていく。完全にジャンプにスコア全体が左右される形になっています。
どんなご立派な理想が込められたルール変更であっても、実際におこなわれている採点があんな内容ですから、信用ならんですよ。結局、エレメンツのレベル判定等はAI、ジャッジはプロ化、この2つの早期導入が望まれるという結論に落ち着きますね。何年先になるか分かりませんけども。
では、また明日!
Jun