引き続き「Life Extra」を見ていきます。前回のレビューは「こちら」。
今日は衣装デザイナーの原孟俊さんのインタをご紹介しますが、皆さんこれ読みました?原さんインタは2部構成になっていて、ものすごいボリュームになっています。前半が、主にファンタジーBツアー(オープニング&フィナーレ衣装)について。後半が、ノッテステラータ(内村さんとのコラボ衣装)について。本来だったら2~3回に分けるぐらいの濃密さなんですが、ここは「心を鬼にして」厳選紹介することにします。
しかし、羽生さんの競技者時代にLifeがFaOI(しかもBツアー)についてこんなに掘り下げていた記憶はちょっと無いので、羽生さんのプロ転向により、「羽生ムック」として堂々と出せるようになって、内容が明らかに深くなっています。こんな所にもプロ転向の恩恵があるわけです。ぜひ買ってあげてください。
――(Bツアーのブルーのオープニング衣装について)羽生さんの感想は?(*新潟・神戸の衣装のリンクも貼っておきます)
「すっとなじむというか、『あ、OK』みたいな感じでした。ただ、フィッティングされた時に『ここがもう少し短くてもいいかも』とか、『ここはもう少し角度があった方がいいかも』というお話をいただいて、ちょっと調整しました。・・・羽生さんはショーの前に、他の出演者よりかなり早いタイミングからオープニングの衣装に着替えられてアップされていることが多いんです。僕たちはスケーターの皆さんが衣装を正しく着用されているか確認するんですが、羽生さんはいつも間違いなくとてもきれいに着用してくださっていて、衣装の構造を理解していらっしゃるんですね。例えばハビエルは絶妙に間違えていることもあるんですが(笑)、羽生さんは正しく理解されていて、アップの時点からきちんと着こなしていらっしゃる。そのことがいつもありがたくて、嬉しいですね。衣装も含めてショーに向けてスイッチを切り替えて、ゾーンに入っている。僕がお手伝いをしなくても、衣装が正しくきれいに見える形で着用されて、全力でアップされている。今回もその姿の美しさが印象的でした」
――今回、ジョニーさんの引退というセレモニーがあったことは、何か意識されていましたか?
「フィナーレを終えた後、ジャンプ大会のためにシャツ(*FaOI黒Tシャツ)を着替えるじゃないですか。今回フィナーレに関して羽生さんは、ベストを脱いでシャツだけだったらジャンプを跳べると事前におっしゃっていたんです。ただ、あのブラウスの生地が、柔らかな落ち感を出すために結構薄めの素材を使っていて、ベストを脱ぐと透けてしまうんです。だからインナーを着れば、ベストを脱いでジャンプ大会ができます、と事前に用意していたんです。でも、『下に襦袢が見えるのはダサいよね?』『ダサいかもしれないですね』『じゃあ、いい。シャツに着替えるから大丈夫だよ』とおっしゃってくださって。最終日はジャンプ大会のために着替えて、ジョニーのセレモニーの間にまた着替えて、それで渾身の『Otonal』を滑られるという。僕の大好きなプログラムですし、もう号泣してしまいました(笑)」
神戸最終日はフジTWOで完全生中継があったので、ウチの円盤を確認しました。たしかに、羽生さんはフィナーレ後に、一人だけ一瞬裏に引っ込んで黒Tシャツに着替えて戻ってきてるんです。ですが、羽生さんがジャンプを跳ぶことはなく、ジョニーとの「ズサー」だけやって、すぐにまた裏に戻ってフィナーレ衣装に着替えて花束を持ってリンクに戻ってきています。そして、その後に「Otonal」を演じています。
事前の打ち合わせでは「他の公演日と同様にジャンプ大会に加わるので」ということだったんでしょうけど、楽日はジョニーとのお別れがメインでしたし、羽生さんが裏に引っ込んでる間のジャンプ大会もいつもと比べて簡素に見えました(羽生さんがいないから当たり前なんですけどね)。
ちなみに、オープニングの衣装のプリーツの生地が20~30m必要で、海外の業者から直接輸入したんだそうですが、輸送トラブルで到着が遅れて、ギリギリだったみたいです。輸送関係はコロナの影響もあるでしょうし、間に合って良かったですね・・。
お写真はノッテの「公式X」でアップされたものをお借りしました。
「今回(notte衣装の)デザイン出しについては、羽生さんも内村さんも一発OKでした。内村さんいわく、基本的には自分は競技をやる時には半ズボン、ショートパンツしか履いてないけれど、長いパンツでもまったく問題ないですと。100%力を出しきれるので問題ないです、デザインもいいです、という言葉をいただきました。・・・(羽生さんについて)衣装の裾などは少し長い方が色気があるけれど、どこまでなら4Tや3Aが跳べるのかを、羽生さん本人と確認させていただければと思っていました。・・・羽生さんが本当にすごいのは、どこまでが自分のパフォーマンスの限界点か、完全に自分の中に入っているように感じられる点です。・・・結果的にはほぼ何の変更もなく、こちら側が出したいと思っていたイメージやパーツの付け方などは、ほぼそのままの形で実現しました」
「今回は羽生さんをフェミニンに、内村さんを男性性が強めに振り分けた方が体操とスケートのコントラストが出るかなと思っていました。・・・ただ、装飾的な制約が多いのは、やはり内村さんの方です。・・・基本的に身体から離れるような飾りはできないという。スケート選手のようにひらひらした飾りだったり、ドレープ感で見せるような、そういうアプローチは一切できないと。そうすると身体の表面につけるテクスチャーの面で見せるしかなく、飾りとして見せられる要素がかなり少なくなってしまう。だから内村さんにはスリーブをつけたいなと思ったんです。実際ご本人に会って、アームバンド的なスリーブは似合いそうだなと思いました。一方で羽生さんについては、彼の持っているある種の妖艶さやフェミニンな面を演出したいと思ったので、スリーブの長さや留める位置などを仮縫いさせていただいた際には結構細かく調整しました」
実はこのように二人の衣装を見比べてみると、デザインコンセプトは統一感があるんですが、装飾の多さが違うんですよね。この写真からだと羽生さんはちょっと分かりにくいですが、背中の部分にもヒラヒラがついています。そして、原さんのインタを読んだだけでは気づかなかったのですが、二人のアームの部分の長さも違っていて、内村さんは二の腕や手首も激しく使うので、そこは圧迫しないような長さになっている。衣装製作もある意味で「裏方」の仕事だと思いますが、こういう「演者との調整能力」の高さもあって、原さんは数多くのショーに起用されているのでしょうね。我々は素人目線でデザインについてあれこれ言う訳ですけど、様々なリクエストにしっかり応えて、きっちり締切に間に合わせてくる。仕事が速くてできる人なんだと想像しますね。
――内村さんが漆黒の中から浮かび上がってくる感じが、黒と金の配色の衣装ですごく高貴な印象でした。
「・・・僕が羽生さんに感謝してるのは、照明のタイミングや当たり方などを本当に細かく照明チームの皆さんと調整されていて。そういうディテールの調整をしなかったら、あそこまでの感動にはなっていないと思うんです。やっぱり衣装と照明ってニコイチな部分があるんですよね。衣装のディテールが照明いかんで何倍にも良くなることがある。スクリーンが上がってくるタイミングとか、最初のスポットの立ち方とか、内村さんがパフォーマンスをしている時には羽生さんの方は全部暗転してるとか、そういうコントラストのつけ方などを羽生さんはギリギリまで細かく調整されていて。そうした照明の効果によって衣装がさらに引き立ったと思うので、チームの皆さんへももちろんですが、僕は羽生さんにすごく感謝しています」
私も、地元の映画館でのライブビューイングでしたけど、あの内村さんの登場シーンは、館内からどよめきが起きてましたもん。しかも、羽生さんは照明の調整にまで関与していたんですね!まぁ、「プロローグ」のビデオ編集もギリギリまでやっていたという話ですし、こりゃ「RE_PRAY」も凄いことになってるのでしょうね。
しかし、羽生さんが精魂込めてショーを作り上げてくれるのは嬉しいですが、「あんまり抱え込み過ぎないでくれ!」という気持ちも一方ではあります。この辺り、光一君との対談で何か「ヒント」を得てもらえるといいのですが。
では、また明日!
Jun