2019年4月2日発売。税込み価格「980円」。あれほど待っていたマガジンでしたが、いざ体調崩したり、忙しかったりで、1ヶ月経ってようやく中身を開いてみました。
2枚のポスター両面ともに(つまり計4面が)羽生君で、冒頭から57頁までノンストップで羽生君特集。それ以外はなんとたったの8ページで、「協力・スケ連」のお墨付きがないのにこの内容で出せるというのは、あまりに潔すぎますね。
もともと、BBマガジン社はプロ野球その他、別のスポーツの方が主戦場ですし、「フィギュアスケートマガジン」を仕切っている山口真一さんは、同社をすでに退社して、フリーライターといっていい存在。スケ連やUSMに忖度なんてする必要もないですからね。本来、ジャーナリズムとはこうあるべきなんですが、フィギュアスケート業界にはそんな気概のある雑誌がほぼ皆無というのは残念です。
さて、この雑誌は共同通信の吉田学史記者に依頼したテキストや毛受亮介カメラマンのコラムを除くと、写真に添えられた一文も含めて、おそらく目に入るすべてのテキストに山口さんの思いが詰まっていると感じます。
例えば、24頁のSPドローの写真に添えられたテキスト。「1人カンファレンスルームに残った羽生。去り際にはISUスタッフと報道陣に深々と頭を下げた。どんな大会、どんな会場でも、羽生結弦は羽生結弦なのだ」。いまや羽生君のこういう振る舞いをしっかりキャッチしてくれるのは地上波番組の方で、フィギュアスケート専門誌が「スルー」を決め込んでいるのは嘆かわしい限りです。
もうひとつ印象的だったのは、SP会見(32頁)のテキスト。
冒頭のジャンプでのミスもあり、3位発進となった今大会。胸中を映し出すかのように、会見場での羽生はどことなく浮かない表情に見えた。それでもスモールメダルの授与では2位のジェイソン・ブラウン、さらに1位のネイサン・チェンの名が読み上げられると、真っ先に手をたたいて会場全体の拍手の起点に。壇上でマイクを握っても、両選手の素晴らしさを称えるコメントを発するなど、振る舞いはトップスケーターとしての誇りに満ちていた。思いを口にすることで、演技中は「真っ白」だった頭の中も整理されたのだろうか。静かなたたずまいの中、悔しさから闘志へと、気持ちは切り替わったはずだ。
「勝者を称えるのが王者の振る舞いである」と評価してくれたのは田村岳斗コーチですけど、山口さんも同じ所を見ていますよね。それにプラスして、面白い!と感じたのは、「ジェイソンやネイサンを称える中で、気持ちを整理して切り替えたのではないか?」と観察している部分。勝者を称えることで、“真っ白”で茫然自失だったメンタルを闘志へと変換したという解釈は、もちろん羽生君本人は否定するでしょうけど、長年「追い詰められた時の羽生結弦」を彼は見続けてきただけに、これは説得力があるなぁと思いますね。
まだまだ語りたい所はありますが、明日、毛受カメラマンの素晴らしいコラムとともに、掘り下げていきたいと思います。
では、また明日!
Jun
コメント
政治社会分野でも「主観」がないとは言えない。
とはいえ、いくらマイナーな分野でもこれほど拗らされてはね。フィギュア界の大枠は一部の利害で作り上げた「虚構の村」と思うことにしています。自分の感じるものだけ受け取れば良い。
自分の感性を肯定してくれるような山口さんのテキスト。羽生さんの演技と、このようなライターさんのおかげで、心が少しだけ、フィギュアスケートに向いています。
ごろ寝さま
良いものだけを心と身体に吸収することにしましょう。嫌なものは嫌と言いましょう。
私自身は、フィギュアスケートに「熱心」になりすぎないように、適度に距離を置きながら楽しみたいと思っていますよ。
私も 両選手を称えて、思いを口にしながら思考を整理していった、と見る山口氏の見方に深く頷きました。思い出したのは、2014年N杯で4位になったとき。表彰台の村上大介選手を称えるためにリンク横で拍手をしていた姿です。あの時も、ああして勝者を称えるなかで気持ちを整えていったのだと思います。
そう考えると、ずっとブレない姿勢があることに、改めて気づきます。傍で見てきた山口氏ならではの感想ですね。
ところで、「協力スケート連盟」ではなかったのですね。にも関わらずこの内容、なのか、だからこそ、なのか…。
次回出版に一抹の不安が残りますが、どんな圧力にも負けず、是非是非発刊し続けて欲しいです。
ととちゃん さま
自分自身を鼓舞し、奮い立たせるために、しばしば「強い言葉」を発することはありますけど、周囲に対してはいつも気を使って、配慮のできる人。そこは、ブレないですよね。
いつもながら、ご両親の教育、指導者の教え、そして本人の資質の3つが合わさって、フィギュアスケーターのみならず、人間としてすべてがお手本ですよ。
マガジンは、これだけのものを作ってくれるなら、年一回でも十分ですね。山口さんは、今後もしかするとキスクラでの特別寄稿がまたあるかもしれません。そちらを密かに期待しています。