2023年8月7日発売。定価「510円」。
今回の羽生さんの記事は、「表紙の人~独占インタビュー」(9~15頁)、「Hanyu Yuzuru × Ninagawa Mika ~松原孝臣さんのテキスト」(33~37頁)という「2部構成」になっています。ただ、おそらくスケートと直接関係のない話題ということで「表紙の人」にまわされたであろう部分で、羽生さんは非常に興味深い発言をしています。
「最近はその服を着たときにどういうふうに見えているのかを客観視していて、この服はどう見せてもらいたいのかな、というのを思うようにしています。ちょっと突拍子もないかもしれないですけれど、『この子はどう見られたいのかな』と服の声を聞いたりするようなイメージで動いています。それに加えて、(撮影する)蜷川実花さんはどういう視点から写真を撮っていて、どういう雰囲気を受け取りたいのかなと考えつつ、勝手に動いているみたいな感じですね」
「半年ぐらい前まではプログラムじゃないですけど、スタジオの雰囲気を感じたりとかしながら自分の意思で動いている感じでした。でも撮影の中で服の素材のすごみのようなものを初めて感じることがあって、『服ってこんなに意思があるんだな』と思ってから変わったと思います」
羽生さんは具体的に言及していないですけど、「ELLE JAPON 8月号」でのGUCCIとのコラボ企画がきっかけかもしれません。ただ、これはいわゆる「ハイブランドを着てファッションに目覚めたぜ!」的な類の話じゃなくて、羽生さん自身が「身体表現の可能性」を広げる必要性を感じていて、だからこそ、「服の声を聞く」という意識を持つに至ったんじゃないかと。それは、インタビュー本編の以下の発言ともリンクしています。
「ここ1年、初めて自分でプログラムの振り付けをしたり、曲に合わせて動いているときに、なんか物足りないなって思うようになってきました。・・・例えば『オープニングの振り付けを自分で担当してね』『ここ、ちょっと滑ってみて』と言われたときに自分から出てくる振り付けがけっこう限られているんですよ」
「ダンス系のプログラムでも、フィギュアスケーターだからこれくらいでいい、じゃなく、ダンサーとしてのレベルを上げつつやっていかないと、なんとなくダンスの真似をしているプログラムにしかならないと思うんですね。ダンスをするんだったら、ちゃんとダンスの道に詳しい方にお話を聞きながら取り入れるべきだと思います」
「・・・フィギュアスケートしかやってなかった人間がいろいろなことを勉強し始めて、それをフィギュアスケートというものに落とし込む。それがフィギュアスケートだけじゃなくて、ざっくり言うとエンタメっていう表現というものになっていってくれたらいいな、と思っています」
いまの羽生さんは競技プログラムで求められる技術・体力を維持していますけど、4回転や3Aを跳べなくなった時に、プロスケーターとして何を表現できるか。「高難度ジャンプを跳べなくなったから、コーチや振付師になる」じゃなくて、それこそ、ジュエルズで野村萬斎さんが語っていたように「1回転が5回転のように思えるようなオーラをまとう」というレベルの表現を「いまから」目指して、羽生さんは貪欲に、そして自由に学んでいる最中なんだと思います。ジャッジのいないプロスケートの世界だからこそ、それができるわけです。
いまの羽生さんのマイブームは「ダンス」ですけど、数年後は「和の世界」にどっぷりハマっているかもしれない。萬斎さんとのコラボもあるかもしれない。「これはスケートじゃない!」なんて年寄りの説教みたいなことを言ってる暇があったら、我々も今のうちから「教養」を身に着けていかないと、羽生さんの表現の進化に追いついていけない可能性がある。
ドームとかアリーナのようなデカい箱でのワンマンショーを楽しみにするというだけでなく、「来年は何をやろうとするのだろう?」という部分で、非常にワクワクさせられるインタでした。そうそう、蜷川さんのお写真、レッド一色かと思ったら、後半はブルーのイメージのショットもあって嬉しい驚きでした。
では、また明日!
Jun
コメント
こんにちは 更新ありがとうございます
羽生さんはほんとに時間を無駄にしない人です。
コロナ禍はすべての人が仕事や進路の停滞に悩んだわけですがその中でもやるべきことを見失わず取捨選択できる賢さと強さに感服です。
結婚も日本にいる時間があったからこそではないか、と。
相手がだれかなんてあんまり気にならないんですよ。
そもそもよそ様のご子息ですわ。
東京に出てこないという判断も正解ではないかしら。
東北人らしい芯があっていいです。
ほんとに面白い、興味深い、楽しい、素敵な人です。
みつばちさま
羽生さんの場合、やはりご家族の支えも大きいですよね。藤井聡太さんもそうですが、本職に集中できる環境があり、それを手放さない意思の強さも素晴らしい。結果を出すべくして出しているお二人です。
しかし、相も変わらず、女性週刊誌を中心にゲスなタイトルのネット記事がいろいろ出回っていますが、これにスポーツ新聞が追随しない所に、プロ転向後の羽生さんとメディアとの良好な関係を痛感します。興味深い現象ですね。