読書雑談(習慣と脳の科学)

読書雑談(習慣と脳の科学)

Amazonレビュー経由で気になっていたのが、「こちらの本」。アメリカの心理学者の書いた学術書の邦訳で、多少値は張りましたがとても良い本でした。

内容としては、「なぜ悪い習慣・癖は簡単に直せないのか?」という疑問を、様々な臨床実験や調査を通じて検証したものです。学問分野としては、脳科学、神経科学、心理学に属するもので、その実験・調査手法も、無作為に集めた人たちからの聞き取り調査のようなものから、ラットの脳に電極を埋め込んだり、薬物を投与して行動の癖を観察するものようなものまで、非常に多岐に渡ります。

本書は1970年代あたりからのこのテーマの「研究の歴史」をざっと概観する形になるんですが、どういう疑問をもとに、どのような実験・調査が実施されてきたのかを見るだけでもとても楽しいです。もちろん、私も本書の内容を完璧に理解できたとは思っていませんが、裏を返すと、私のような大学受験を英・国・世界史だけで乗り切った人間でもそれなりに楽しく読めるレベルの一般教養書とも言えます。

で、「悪い癖・習慣」と言っても、「自分で計画を立てても挫折してしまう」とか「ついつい食べ過ぎてしまう」とか「運動が続かない」といった軽いものから、摂食障害、ニコチン中毒、アルコール・薬物依存、ギャンブル依存といった深刻なものまであるわけですが、本書はどちらかと言うと「深刻なもの」を方を多く扱っています。

そんな中、「軽めの方」で非常に面白かったのが、「自制心の強さ」に関する調査です。2011年に行われた研究で、208人の被験者に対して行われました。この人たちに、まず簡単なアンケートに答えてもらった上で(「自制心が強いかどうか」の自己認識を問うもの)、端末を渡されます。で、その端末に数時間ごとに通知が来て、「その時点で欲求を感じているかどうかを報告する。欲求を感じた場合は、その種類を報告し、その欲求の強さを1(まったく感じない)から7(抵抗できない)までの尺度で評価して、返答する」というもの。

結果はどうだったか。例えば、健康的な食生活と運動習慣がありスリムな体型を維持している人はさぞかし自制心が強いのだろうと思いきや、結果はまったくの逆だったのです。良い習慣ができている人たちの回答は、欲求を経験する頻度が少なく、感じている欲求の程度も低かったのだとか。つまり、日常生活の中で良い行動習慣がルーティン化されていると、それが当たり前のことなので、自制心や意志の強さを試されたり、欲望と葛藤するという心理状態にならないわけなんですね。

これを読んでいて思ったのは、だから、羽生結弦さんも、藤井聡太さんもずっとストイックな生活を続けているのだな!と。もちろん、彼らが自制心が強くない、と言っているんじゃないですよ。おそらく彼らは、これまでもこれからも、欲望を意志の強さで抑え込んでいるわけじゃない。幼少の頃からそのような生活が当たり前の日常で、スケートや将棋が仕事になり、第一人者としての責任も背負うことになって、ますますそのルーティンを変えない生活が「最適である」と考えて日々を過ごしているように思われます。

あんなに富も名声も得ているのに、「高級外車を乗り回してぇ!銀座で豪遊してぇ!芸能人やモデルの彼女を連れまわしてぇ!」ってならないのは、「ゲス週刊誌に書かれたら困るから」という理由ではまったくなくて、そもそもそういう欲求が発生する「余地」が生活ルーティンの中で無いんでしょう。逆に、「なぜそういうことしたくならないの?」と思うような俗物の私は、生活が「荒れている」証拠で、きちんとした行動を日常生活に組み込んでいかねば・・・と恥ずかしい限りです。

メタルジョギング・チャレンジは185日目。SLIPKNOTの『Slipknot』(1999年6月)です。アイオワ州デモイン出身の9人組。全員がお揃いのツナギに覆面姿の異様なバンドですが、彼らを発掘したのが、KornやLimp Bizkit、Sepulturaの作品を手掛け、当時飛ぶ鳥を落とす勢いの名プロデューサー、ロス・ロビンソン。ロスが手掛けたバンドですし、私も発売日に本作を購入して実際に音を聴いてみると、「なんじゃ、こりゃ!」と衝撃を受けたことを今でも生々しく覚えています。

本作を久々に聴きましたが、1曲目のイントロの後、2曲目の「(sic)」からアドレナリンが出まくりましたね。ジャンル的には、いろんな要素をごった煮した「ミクスチャーメタル」と言うべきなんですが、やりたいことを出し惜しみせずにぜんぶぶち込んだのがこのデビュー作で、曲順とか緩急とか関係なしに、クールでヘヴィで疾走感のある狂暴な楽曲がどんどん続いていくので、いま聴いても爽快です。

9曲目の「Liberate」は特に好きな一曲なんですが、昨年のライブ映像を見てみると、さすがにこれだけビッグで稼ぎまくっているので、ヴォーカルのコリィの服装がオシャレになってますね(笑)。でも、ライブの腕はまったく衰えておらず、音はカッコイイですよ。

基本的に彼らの作品に駄作は無いんですが、やはりデビューアルバムの本作から順番に聴いていくのがオススメ。辺境の田舎町で、農業に従事するぐらいしか未来の無い若者たちの、ハングリーで鬱々とした怒りと絶望のネガティブパワーが炸裂しまくっています。誰にも注目されず、閉ざされた空間で純粋培養されたからこそ、世に生み落とされた怪物の音楽。

いまや、アマチュアのミュージシャンもネットでチャラチャラと動画配信できる時代ですが、おそらくこんなすごいバンドはもう出てこないでしょう。

では、また明日!

Jun


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