将棋も羽生さん関連も新しいニュースが無さそうなので、『レンズ越しの羽生結弦』を水曜日から読み始めたのですが、ページをめくる手が止まらなかったですね。とはいえ、寝ないわけにもいかないので、「第6章 慈愛」(北京五輪)で一度中断して、木曜日に残りを読み切りました。
正直、「この分厚い本はハードル高いよなぁ・・・」なんて感じていたのですが、読み始めたら背中にガンガン追い風を感じるような「錯覚」さえありました。字が小さすぎないのもいいですし、久々にワクワクする読書を堪能した感があります。この年末年始を使って、章ごとに印象的だった部分をピックアップする予定ですが、ひとまず今日は、全体的な印象と軽く推しポイントを挙げておきます。
・「僕には、カメラマンとしての才能なんて、ありません」(27頁)。小海途カメラマンのこの衝撃的な発言から一気に引き込まれました。ゆづファンの誰もが「そんなバカな!?」と思うはずですが、その理由が徐々に明らかになっていきます。「ひとりの会社員」が組織の中で葛藤・苦悩を味わい、それと同時に、決して希望していたわけではなかった競馬担当現場での先輩カメラマンからの温かいアドバイスもあったり、そして長久保部長との出会いへ・・・と、ぼやかして書いていながらも目頭が熱くなっている自分がいます。
・おそらく本書での初出のエピソードかと思いますが、小海途カメラマンが羽生さんを初めて撮影したのが、2015年大晦日の紅白歌合戦だったというのだから、夜中に思わず声を上げてしまいました。さらに言うと、彼がフィギュアの試合を取材するのは、そこから1年以上後の17年2月の4CCということになります。
・本書は、著者の田中充さんの文章がとにかく読みやすく、不自然な偏り・余計な記述もなく、それでいて元産経新聞運動部記者の「同業」としての意見も盛り込まれており、まったく飽きさせません。というか、本書は、「小海途カメラマンのヒストリー」であり「羽生さんのヒストリー」でもあるという、「羽生結弦通史本」としては前例の無い試みです。もしかりに、「羽生結弦ヒストリー本」がどこかの出版社からいま発売されるとしましょう。その内容の中心が競技者時代だとして、皆さん、飽きずに読み切れる自信がありますか?少なくとも私には無理です。だって、知っていることが大半でしょうし、羽生さんの関係者から今さら「新情報」なんて容易に出てくるはずもないですから。
・そこにあって、本書は羽生さんの主に競技者時代の軌跡を小海途カメラマンが追走した記録であり、そこに当時の大会の諸事情等を田中さんが肉付けしていくんですが、他の選手のことやら技や構成のアレコレをとことんまで削りに削っている点が、この抜群の読みやすさにつながっています。「羽生特集」を謳いながらアノ選手やらコノ選手のage情報をステルス気味に盛り込んでくるテキストとはわけが違います。安心して羽生さんと小海途カメラマンの活動にどっぷり浸かってください。
・ひとつだけ苦言を申しあげるなら、小海途カメラマンへの注目は「フィギュアスケートマガジン」誌での座談会とは切っても切り離せないと思いますが、それについて言及が皆無な点は、まぁ、「大人の事情」ということで承知しておきましょう。
あまり書きすぎると皆さまの楽しみを奪ってしまうのでこの辺りでやめておきますが、もう一点だけ。本書の中でも、小海途カメラマン入魂の写真がモノクロで紹介されてはいるんですが、そのいくつかのカラー版が巻頭に掲載されている写真なのです。本書を読み始めると、私なんかはカラー写真の存在をすっかり忘れていたのですが、皆さまはぜひ巻頭部分に立ち返ってみると良いかと思います。そして、もし「YUZU’LL BE BACK」シリーズをお持ちであれば、すぐに取り出せる場所に置いておくと良いかもしれません。
それにしても、田中さんのライターとしての特徴って、Quadrupleではそこまで感じることも無かったのですが、今回は本当に良い仕事をされています。前に一冊出てる本の方ももちろん買ったはずなのに、部屋を探しても見当たらない・・・。時間があればぜひ読んでみたいと思っています。
では、また明日!
Jun