ABEMA将棋チャンネルでの放送は「こちら」で。両者の対戦成績は、藤井竜王・名人から見て「11勝6敗2千日手」。
8月31日の第一局は永瀬王座が後手番で勝利。プロ棋界では後手番は不利とされているんですが、永瀬さんは後手番用の作戦を準備して、「無双状態」と称される先手番の藤井さん相手にきっちり勝利しました。この対局では、持ち時間が切迫する終盤になっても永瀬さんの指し手が乱れず大きなミスをしなかったことが印象的で、むしろ藤井さんの方は攻め駒が「渋滞状態」で、珍しく駒効率が悪く冴えない感じがしました。どんな大棋士であってもイマイチな対局は必ずあって、それは佐々木大地七段との棋聖戦・王位戦のダブルタイトル戦でも見られた光景でした。
第二局は永瀬さんが先手番で、これは王座としては是が非でも勝っておきたい一局。ただ、藤井さんとしても連敗だけは避けたいはずで、お互いの意地と研究が激しくぶつかり合うことになるでしょう。
さて、永瀬さんと言えば、先週土曜日の「ABEMAトーナメント2023」の準決勝をチーム永瀬が勝ち抜けて、決勝進出を決めました。この準決の収録は8月だと思いますが、リーダーの永瀬さんは全て後手番を受け持っての3連勝。圧巻の勝ちっぷりでした。特に「横歩取り」の2局は、このアベトーが非公式戦にも関わらず、永瀬さんは後手番用の研究ストックを惜しみなく出して、圧勝。「この人、いったい研究どれだけストックしてるの?」と、プロアマ問わず視聴者みんながビックリしたはずです。
ところで、将棋のプロ棋士の日々の勉強方法は、AIの活用が当たり前になったことで、「研究会(*4人集まっての勉強会)・VS(*ブイエス。1対1の練習対局)」が減ったと言われています。数十万円~百万円以上するマシンにAIを入れて、「プロ間の将棋で前例の無い有力な作戦があるかどうか?」と、自宅で一人黙々と「鉱脈」を掘りまくるわけです。プロ一歩手前の奨励会三段の若手も研究にはPCが欠かせません。
で、永瀬さんはどういう人かと言うと、自宅でAIを使った勉強はあまりやらないそうです。そうではなく、対局以外はカレンダーを研究会やVSで埋めまくる。藤井さんのような大棋士だけではなく、三段の若手とも研究会を入れる。そして、「AIで掘りまくった作戦」を武器に挑んでくる若手とぶつかり稽古をして、その作戦を吸収する。そんな永瀬さんが、プロ棋界では「No.1の序盤戦術の知識の持ち主」なんだそうです。
将棋のプロって、それこそ小学生の頃から「神童」と呼ばれるような天才の集まりですが、結局、永瀬さんのように泥臭く努力を続けられる人がトップ争いできる。でも、そんな努力を重ねても、藤井さんに七冠も獲られているじゃないか?と見るか。いやいや、努力できるからこそ、藤井さんと良い勝負ができているじゃないか?と見るか。ちなみに永瀬さんは七段時代に「絶対にプロ棋士になれる方法」というコラムを書いていたことがあります。「実戦メイン」という点では一貫していますね。
永瀬さんが王座を防衛することになると、将棋界におけるいわゆる「才能か?努力か?」という論争に対して、「努力」擁護論が多少優勢になるかもしれません。我々アマチュアにとっては励みになります。藤井さんの八冠制覇も見てみたいが、永瀬さんが王座を守り切る瞬間も興味深い。少なくとも、最終第五局までもつれてほしいなと思いますね。
では、また明日!
Jun