『孤高の原動力』のレビュー第二弾です。前回レビューは「こちら」で。
以下、今回はテキスト部分で印象的だった箇所をピックアップしてみます。まずは、伊藤聡美さんのインタ(84~85頁)から。
――羽生さんが競技会から離れたことで、変化はありましたか。
重さを気にしなくていいというのは新鮮な気持ちというか、「競技から抜けると、これだけ自由なものを作れるんだ」と感じています。たとえば、「火の鳥」では、羽生さんから楽曲のイメージをお聞きして、まず「大きな羽をつけたい」と思い、実際にそうしたデザインで衣装を作りました。「いつか終わる夢」も、事前にジャンプのないプログラムだと聞いていたので、袖をひらひらさせたり、裾を金魚みたいに長くできたらいいなと思ったり。いろんなことに挑戦できるようになりました。・・・「このプログラムはジャンプがないので、重くなっても大丈夫です」という一言があったりするので、じゃあこれに挑戦できるぞ、と(笑)。生地や装飾の幅が広がるのはうれしいですね。
衣装のデザイン画(80~83頁)も併せてご覧いただきたいのですが、羽生さんだけでなく、衣装デザイナーも「制約が無くなる」というのは、言われてみるとなるほどなぁ・・・という感じでした。デザイン画の方に伊藤さんの一口コメントも掲載されているんですけど、「火の鳥は(デザイン画では)髪飾りもつけていた」そうですが、羽生さんから「演技中に気になってしまう」とのことで却下。FaOI2022の「Real Face」でフードはかぶっていましたけど、やはり、頭に常時装着は無理なんですかねぇ・・・。この「火の鳥」の髪飾りは、横山光輝先生の「三国志」の南蛮地域の武将の兜みたいで、なかなか攻めてて面白そうなんですけどね・・・。
――自分と向き合うのはつらかったりしんどかったりする作業だと思います。「オペラ座の怪人」を「GIFT」で披露して、「スターズ・オン・アイス」でも演じる。それらは過去の演技と向き合う、乗り越えて更新する試みでもあるのかなと思うんですけれど、そういった向き合うしんどさから逃げない姿勢は、どんなところから出てくるんですか?
それも表現になればいいって正直思っているんです。たとえ僕が苦しかったとしても、それを出すときに苦しかったとしても、この苦しみから生まれる表現は絶対にあるよなって思います。
こちらは羽生さんのインタの48頁から引用しました。この一節を目にして、「スイッチインタビューEP2」で紹介されていた、SHOCKの劇中での堂本光一君のセリフを思い出しましたね。
「俺たちはひとつ苦しめばひとつ表現が見つかる。ひとつ傷つけば、またひとつ表現が創れる。ボロボロになる。その分だけ輝けるんだぞ」
今回のインタが、光一君との対談の前か後かは分からないですが、考え方としては同じですよね。そこを一つとっても、プロの表現者としての階段を着実に登っているなと。で、この時期にこういっちゃアレですけど、羽生結弦さんという人は、「怒り」とか「苦しみ」といった感情をスケートで表現してくれると信じています。
その場でくるくる回ったり、ジャンプをしたり。「ELLEと同じになっちゃうから」と言って、見せたのが収録した一枚。衣装の特徴も生かして絶妙に決める。
最後にこちら。「Document 263min」と題された、蜷川実花さんによる写真撮影の裏側を記録した一節から(100頁)。たしかに黒の衣装で空中を舞うショットは、「ELLE」というかGUCCI銀座ギャラリーでも展示されていたと思いますが、やっぱり「ELLE」とかぶらないように・・・という所は、スタッフだけでなく羽生さんも念頭にあったのかもしれませんね。
「AERA」の方が羽生さんとのコラボ歴は長いわけですけど、あの「ELLE」の撮影はターニングポイントになったのだなぁ・・・と。「AERA」ムックのレビューでこう言うのもアレですが、「ELLE」の第二弾もぜひ見てみたいですね。
では、また明日!
Jun