「KISS & CRY 北京五輪Premium号」(2)

「KISS & CRY 北京五輪Premium号」(2)

引き続き、「キスクラ」のレビューです。今日は、シェイのインタビューをご紹介します。

今回のシェイのインタの中で、特に印象的だったのは、以下の部分です。

この『天と地と』は彼が滑りたいと願ったプログラムで、彼のこれまでの人生、彼自身の旅を描いているのです。・・・彼がこのスポーツに与えてきたもの、ファンへの感謝の気持ちなどが表現されていて、また一つの旅が終わりに近づいて再び新しいものが生まれようとしているのだと思います。彼はとても詩的で、深い。転倒して立ち上がるところも全て、彼の生きざまの象徴であり、彼が経てきたケガなどとの闘いの象徴だったのです。最後のポーズを取った時、彼はその瞬間をとても大事にして味わっていたと思います。

本書(53頁)でも収録されていますが、フリー後に羽生さん自身が、「もちろんミスをしないことは大切ですし、そうしないと勝てないことも分かるのですが、でも、ある意味あの前半2つのミスがあってこそ『天と地と』という物語が出来上がったのかなという気もします」と語っていましたよね。

シェイが羽生さんのこの発言をフォローしているかどうかは不明ですが、マガジンでも「指摘」されていたように、上杉謙信は天下人になったわけじゃない。独自の美学に従って、戦に生きた武将だった。

じゃ、スケーター・羽生結弦はどうか?謙信と違って、間違いなく天下を獲った人ではある。しかも、2度も。でも、平昌五輪以降は、ジャッジのアレコレがあり、正しい評価を得られず、この4年間は辛かったと思うのです。となると、羽生さんにしか成しえない方法で、フィギュアスケートの歴史に生き様を刻み込むしかない。彼にとってはそれが、4Aだった。だから、「己の美学に従う」という部分で、謙信に共鳴したわけですよね。そして、大一番の北京五輪では、4Aは認定されたけれども、ミスによってメダルを逃す結果となった。その結果も含めて、まさに謙信のようだった、と言えるのかもしれません。

もし、平昌五輪以降の採点が適正で、羽生さんが勝ち続けていたら、彼は4Aに挑戦し続けていただろうか?・・・おそらく、練習はしていただろうけど、「五輪3連覇」にシフトしていたんじゃないかと。そのような状況で羽生さんが謙信の生き様に傾倒していたかどうか?「天と地と」が誕生していたかどうか?歴史に「もし」は禁物ですけど、そうはならなかったような気がしています。

ところで、キスクラの「前号」では、「ロンカプのストーリー」について、シェイはこう語っていました。

「この世で最も寒い場所にいて、そこからたった一人で踏み出す。最初のジャンプの後、小さな光が見えてくる。そこに向かって行き、抱きしめると、光は消えてしまう。別の光に向かって行っても、また消えてしまう。『光』とは、彼が手にしたサポート、観客の応援、すばらしい演技、成功の数々など。しかし、それらは永遠に続くものではない。彼は、この世の全ては移り変わっていくことを受け入れていく

これを読んだ時に、「ホプレガみたいだなぁ・・・」というのが第一印象でした。しかし、「光」と言うと、ちょうど1年前に『Be the Light』という写真集が出版されて、「震災から10年」という節目と深く関連する企画でもあったので、ポジティブなメッセージが込められていました。でも、羽生さんの内面では、「光」とは「消えてしまうもの」というか、「儚さの象徴」というか、そういう受け止め方をせざるを得ない心境だったのかもな・・・と。

シェイの言葉と、実際のプログラムとを照らし合わせると、いろんな想像が浮かんできますね。とても興味深かったです。

メタルジョギング・チャレンジは27日目。David Bowieの『The Rise and Fall of Ziggy Stardust and the Spiders from Mars』(1972年6月)です。私自身、David Bowieはまったく通ってきていません。予備知識と言えば、氷室京介さんやMr. Bigのカバーがある「Suffragette City」ぐらい。実際、「Hang On To Yourself」は、ボウイの初期の作品(『Moral』や『Instant Love』)に入っていてもおかしくない楽曲ですが、このアルバムを一枚通して聴いてみると、本当にいろんなタイプの曲を器用に歌いこなしていて、ビックリでした。

「Lady Stardust」はまるでエルトン・ジョンのような渋い歌いっぷりですし、アルバムラストを飾る「Rock’N’Roll Suicide」は魂を振り絞るような強烈な歌唱が印象的。しかも、この曲はわずか3分足らずで幕を閉じるので、妙に余韻が残ります。この作品のコンセプトや時代背景については、ネットで調べると色々と分かってきますが、難しい話を抜きにして音楽的な部分だけで評価するとしても、バラエティに富んだ興味深い仕上がりだと思います。

では、また明日!

Jun


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